デジタルカメラは画像をその場で確認できる安心感がある。一方、そこにはコワさもある。スマートに見えても、何が伝えたいのかわからない「あまい」写真が量産される昨今、もう一度、きちんと、丁寧に撮ることを思い出してほしい――。「アサヒカメラ」7月号では、「人に伝わる夏風景」を写す基本技術を特集。ここでは、写真家・福田健太郎氏による「雲海と霧の風景の撮り方」を紹介する。撮影テクニックに走りすぎることなく、自然や風景が見せるちょっとした変化に敏感に反応し、「本当に残したい風景」を撮ってほしい。
※【夏の風景写真撮影ガイド】水面の映り込みを撮る
* * *
雲海はスケールの大きな風景で、向き合っていると、解放感に満ちてくる。
私の場合、夏は標高の高いところから撮影をスタートすることが多く、そのときに雲海との出合いがある。寒暖差の激しい秋は雲海が出やすいシーズンだが、夏でも条件がそろえば雲海が発生する。全国各地に雲海の出やすいスポットがあるので調べておこう。例えば、よく夏の北海道東部では、太平洋で発生した海霧が南風にのって内陸まで移動してくる。それが標高の高い場所から雲海として見える。
シャッターチャンスは日の出前後の約30分、トータルで1時間くらい。なるべくなら東の、朝日の出る方向へレンズが向けられる位置にスタンバイしておこう。
薄明の時間帯、雲海は青白い姿をしているが、次第に赤紫色へと変化していく。太陽が昇ると、黄色に変わり、最後は白色の日中の光へと変わっていく。雲海の動きは、日の出前はおだやかだが、朝日が当たると同時に躍動してくる。雲がうねり、陰影が生まれてくる。
画面が雲海だけで構成されると、スケール感がつかみづらい。静止している木や山の稜線など、少しでいいので地上の風景を取り入れればスケール感が十分伝わる。
露出は日の当たった雲海を優先して決定する。影になった雲のディテールは階調補正機能などを利用してつぶれないように調整する。
雲海の中に入ると、視界がかすむ。近いものほど鮮明に見え、遠くのものほどかすんで見える。上の写真のように、木の枝と山並みなど、近くのものと遠くのものを組み合わせて画面を構成するようなカメラポジションを選び、フレーミングをすると、広がり感と遠近感が伝わりやすい。
写真・文=福田健太郎
※アサヒカメラ2019年7月号から抜粋