国内外の人々を惹きつけてやまない京都。その四季折々の魅力を、京都在住の人気イラストレーター・ナカムラユキさんに、古都のエスプリをまとったプティ・タ・プティのテキスタイルを織り交ぜながら1年を通してナビゲートいただきます。愛らしくも奥深い京こものやおやつをおともに、その時期ならではの美景を愛でる。そんなとっておきの京都暮らし気分をお楽しみください。
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■千年の時を超えて受け継がれる 祇園祭の楽しみ方
7月に入ると、京都の街は祇園祭一色となり、1ヶ月に渡り古式ゆかしく粛々と行事が行われます。疫病や災害を退け平穏な日々を願う八坂神社の祭礼は、千年の時を超え脈々と守り続けられているのです。
街を歩けば、コンチキチンと、お囃子の音色が心地良く響き渡り、身体の中から何とも言えない祭への高鳴りが、沸々と湧いてくるようです。祇園祭が最も賑わうのは、山鉾巡行とその前夜祭にあたる宵山(よいやま)と言われていますが、実は、もっと奥深く、様々な楽しみ方が潜んでいるのです。山鉾には、それぞれ祀られる御神体に歴史的なお話や特徴があります。例えば、「占出山(うらでやま)」は安産の神様で、巡行の順が早い年はお産が軽いなどの言い伝えもあります。腹帯や安産御守の授与もあり、出産を控えた家族や友人のため、多くの人がお参りします。動きが愛らしいカマキリのからくりみくじがひける蟷螂山(とうろうやま)や、奇祭とも言われている深夜のあばれ観音など、深く知れば知るほど楽しむことが出来るのが、祇園祭の醍醐味でもあります。今回は、祇園祭の時期、暑い京の夏の粋な楽しみ方をご案内します。
■福の風 飾っても美しい 徳力版画の団扇(うちわ)
京都の四季折々の風景や行事を描いた徳力富吉郎(とくりき とみきちろう)氏の版画は、色鮮やかで、ほのぼのとした雰囲気が親しみやすく、特に祇園祭を描いた版画の葉書は、夏の京都の情緒がよく伝わってきて、私にとっては欠かせない一枚です。その版画が、団扇としても楽しめると知り、思わず手に取りました。柄(え)の部分が細長いので、浴衣の後ろに挿しやすく、楕円の形状も大人の浴衣姿にはしっくりときます。提灯の灯りが夜空に浮かび上がる「宵山」や、山鉾の象徴である長刀鉾(なぎなたほこ)の鉾頭(ほこがしら)を描いた「あやかれや」の団扇は、お茶席の飾りとしても使われているそうです。徳力家は代々西本願寺絵所を預かる旧家であり、12代目の徳力富吉郎氏は木版画界の第一人者です。寺町通の「十八番屋 花花」(おはこや そうか)には、その版画を使った小箱や小物がずらりと並んでいます。飾って眺めても楽しめる小箱も、お土産に喜ばれています。