写真家には、コンセプトを決めて撮影をはじめる種類と撮影を継続しながらコンセプトを見極めていく種類がいるが、どちらかといえば撮影しながらつかんでいくほうが面白い。テーマを決めて撮ることに邁進していると目的の途中にすごい瞬間があっても見向きもしないことになる。世の中もっと素晴らしくてすごい光景に遭遇しているのに、パスしてしまうのはもったいない。


2018 パリ
2018 パリ

 スナップが面白いことの一つは、根拠も何もなく、その現場で何を感じたかということ。頭の中で計算してイメージのために撮っていく世界もあるが、イメージをつくらず現場の空気感を受けとって、はじめて撮るのがいちばん面白いんじゃないかな。何かが起こったことを猟犬のように食らいつくような写真もあり、静かに凝視していてぱっと撮るということもある。それはそのときの好奇心による直感だと思う。若気の至りでできたことが、今は自分に気恥ずかしいこともある。すべては含羞(がんしゅう)だからね(笑)。

2017 NY
2017 NY

 なぜ、集大成ではなく通過点か。それはスナップには台本がないし、日々新しく新鮮だからできるし、続けられる。そして、自分はスタイルというものにこだわらず自由でいられる。だから、ずっと写真が面白いんだよね。

写真=立木義浩
聞き手= 池谷修一(アサヒカメラ

たつき・よしひろ
1937年、徳島県生まれ。東京写真短期大学(現・東京工芸大学)技術科卒。アドセンターを経て69年からフリー。女性写真の分野で多くの作品を発表する一方、広告・雑誌・出版など幅広い分野で活動、現在に至る。写真集に『GIRL』『私生活/加賀まりこ』『MY AMERICA』『家族の肖像』『東寺』『小女』『Tokyoto』 『Yoshihiro Tatsuki 1~8』『étude』『舌出し天使』など多数。主な受賞に日本写真批評家協会新人賞、日本写真協会賞作家賞、文化庁長官表彰など。

■写真展「時代―立木義浩写真展 1959-2019」5月23日~6月9日 上野の森美術館で開催。著名人のポートレートとスナップを中心に大きく二つのグループに分け700点規模の作品を展示。

※アサヒカメラ2019年6月号より抜粋