現在では、ニャオペは「ヘロイン、ストリキニーネ、HIV治療薬(主にエファビレンツ)を中心に多種多様な薬品が混合されたもの」というのが通説だ。肝心なのはHIV治療薬に麻薬的な効果はないということ。ニャオペの効能として挙げられる快感や幸福感はヘロインによるものと考えられる。強烈な依存性、死亡事故が多発しているといった特徴とも合致する。では、ストリキニーネとは何か。

 これは現地の研究者たちを困惑させ、同時に驚愕させている問題だ。ストリキニーネはいわゆる殺鼠剤(さっそざい)なのである。その毒性は極めて強く、フィクションの世界では殺人の凶器としてたびたび用いられる。なぜ毒物を混入させるのか。

「あくまで憶測の域を出ませんが、ふたつ仮説があります。ひとつはストリキニーネを混ぜることでカサを増やし、利益を高めるため。しかし、カサを増やすだけなら小麦粉や洗剤など、より簡単に手に入るものを使えばよく、筋が通りません。もうひとつはニャオペの"リピーター"を増やすため。ストリキニーネを摂取すると体に激痛が伴います。一方でヘロインには強力な鎮痛作用がある。問題はストリキニーネの作用の方がヘロインよりも長続きする点です。ニャオペを吸うとヘロインの作用が先に消え、激痛に見舞われるので、その痛みを消すために再びニャオペを吸うというサイクルが生まれる。結果、乱用者はニャオペを手放せず、重度の依存に陥っていくと考えられます」(先出のベラサミー記者)

 2011年にクワズール・ナタール大学がニャオペの分析を行った際、プロジェクトを主導したサベンドラン・ゴベンダー研究員は、このヘロインとストリキニーネの組み合わせを目の当たりにして「考え得る最悪の麻薬」と述べたという。

■乱用者の規模はいまだ不透明

「ニャオペは私たちのコミュニティーを破壊している」

ニャオペを所持していた男性(左)を諭すタバン・マドンセラ氏
ニャオペを所持していた男性(左)を諭すタバン・マドンセラ氏

 ソウェト東部のディップクルーフ地区で自警団の代表者を務めるタバン・マドンセラ氏(43)はそう訴える。彼は他の住民たちとシフトを組み、週7日体制でディップクルーフ地区の各地を巡回、ニャオペを所持している住民を発見して没収・破棄する活動を行っている。

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自警団のパトロールに同行 そこで見た現実