宮城県塩釜市で、祖父の代から続く写真館に生まれた平間至さん。後継としてのプレッシャーを感じつつも、メディアで活躍する道を選んだ。地元の写真館は父親の代で休業となってしまったが、2015年、平間さんは東京・三宿に新たに「平間写真館TOKYO」をオープンさせた。

【平間至さんのモノクロポートレート写真はコチラ】

「写真館をやらなくてはという、ずっと胸に引っかかっていたことを、東京で果たしたんです。オープン当初は、いい写真を撮っていたら、人が来るって思ってたけど、そうじゃない。市場と自分のバランスを考えるようになりました。最近の写真館だと、ぼくのようにモノクロでたくさん撮るのは珍しいかもしれない」

 写真館の見本写真には、プロフィルから家族写真まで、カラーとモノクロが混在する。平間さんは、メディアの仕事でも印象的なモノクロ写真を残してきた。そのきっかけは、活動初期にさかのぼる。

「ぼくがアシスタントをしていた伊島薫さんは、カラーポジフィルムを印刷原稿にするのが当たり前だったファッション写真の世界で、カラープリントを加工して入稿した最初の頃の人なんです。師匠を離れて、自分らしい手法を探しても、かえって似てしまう。工夫した結果、プリントの段階ではなくて、撮影のときに何かするところにたどり着いた。それが、モデルもぼくも動きながら撮るようなハードな撮影現場です。そのハードさと、モノクロのハードさがぴったり一致したんじゃないかな。モノクロは情報が少ない分、動きをよりダイナミックに感じるんですよね」

「存在」を撮る モノクロ

 華やかなミュージシャンからアイドルまでモノクロで撮ってきた。鮮やかな色彩を目にしても、モノクロで撮ることに迷いはないのだろうか。

「ないですね。清水博さんという、哲学的な研究をされている方が、カラーは意識を映し、モノクロは存在を撮ると話していました。物に色があるのは、物が反射した光を、人の脳が色として認識するから。色がない状態のほうが、物や人の存在そのものなんだというような意味です。モノクロは『存在の写真』なんだ、とぼくも思う。だから、桜を見て奇麗だなと思う気持ちを表現したいならカラーを、目の前にある桜の存在を撮りたければモノクロを選べばいい」

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ポートレートの難しさ