「ガジロウTV」には、多くの町の人たちが登場する(「ガジロウTV」より)
「ガジロウTV」には、多くの町の人たちが登場する(「ガジロウTV」より)

 そんなガジロウを温かく見守るのが、福崎町の人々だ。どこかで会ったことがあるような、兵庫・播磨地域のおっちゃん、おばちゃん、獣医や警察官らまでが登場する。自然な棒演技に、なぜか引きつけられる。さらにはガジロウの先輩にあたる町のキャラクター、可愛らしいフクちゃんとサキちゃんが隠し持つ、ダークな一面も気になる。エンディングテーマはメタルの「Dark HERO~抜け!尻子玉」(作詞・作曲・編曲/デスヲ) 。突っ込みどころも点在し、ついつい何話も見てしまった。

 なぜ動画を制作することになったのか。趣味で造形をたしなむ担当の町職員、小川知男さん(45)は「常日ごろからすごいと思っている人物のパチンコスロット動画を見ていた時に、『動画だな』と実感しました」と明かした。これまでは、全国妖怪造形コンテストのフェイスブックページなどで、写真を中心に情報を発信していたが、「動画の方がより拡散されやすいのでは」と考えたという。

岩手県遠野市に住むとみられるガジロウママから手紙と贈り物が届くしんみりとしたシーン(「ガジロウTV」より)
岩手県遠野市に住むとみられるガジロウママから手紙と贈り物が届くしんみりとしたシーン(「ガジロウTV」より)

 16年に公開した23分の大作は、最後のスタッフロールまでたどり着く人が少なかった。この苦い経験を踏まえ、「品はなくともふふっと笑えるショートムービーをたくさん作ろう」(小川さん)と、18年冬から制作に乗り出した。

 力を入れたのが、「たくさんの町の人たちに出演してもらうこと」だ。地元の警察や女性団体、動物病院、鮮魚店などを回って協力を依頼した。19年1月から2月にかけて町内で敢行したロケでは、皆さん照れくささを隠し、精いっぱい演じてくれたという。

 難しかったのが、シナリオ作りやガジロウへの演技指導だ。ガジロウは語らない。小川さんは「見ている人に想像してもらえるような演技が必要でした」と話す。“演者”の1人は、ぐだぐだのガジロウを演じる際、「(面白くしようと)色気を出すと、見ている人に伝わってしまう。色気を押し殺して、自分は二日酔いで体調が悪いんだ、気持ち悪いんだと言い聞かせていました」と振り返る。
 

ガジロウの先輩にあたる町のキャラクター、フクちゃんとサキちゃんには、ダークな一面が(「ガジロウTV」より)
ガジロウの先輩にあたる町のキャラクター、フクちゃんとサキちゃんには、ダークな一面が(「ガジロウTV」より)

「万人受けはしなくとも、面白いと思ってくれる人がいて、福崎町に興味を持ってもらえればいい」と、動画の効果に期待する小川さん。「自分の考えることにも限界はあるので」と、破天荒なまちおこしにコミットしてくれる人材やゆるくないキャラクターも探している。

「ガジロウTV」は、現在のところ、全10話の公開を予定しているが、評判によっては、11話以降が制作される可能性もあるという。とりあえずは、全話をコンプリートしたい。(ライター・南文枝)