兵庫県福崎町に“キモカワ”妖怪ブームを巻き起こしたカッパのガジロウ(福崎町提供)
兵庫県福崎町に“キモカワ”妖怪ブームを巻き起こしたカッパのガジロウ(福崎町提供)

 公園の池の中から突然現れる“キモカワ”なカッパを軸に、破天荒なまちおこしを進める兵庫県福崎町が2019年4月、新たな燃料を投下した。カッパの生活に密着した動画「ガジロウTV」を公開したのだ。動画をチェックした後、いても立ってもいられなくなり、同町を訪ねた。

 町出身の民族学者、柳田國男の生家がある辻川山公園の池の中に、定期的に飛び出す仕様のカッパ像「ガジロウ」が設置されたのが、5年前の2014年2月。赤茶けた体に生気のない目、しわしわの手、ばさばさの髪と、可愛らしさのかけらもないガジロウは、その薄気味悪さゆえか、たちまち話題に。人気の少なかった公園には、ガジロウを見ようと多くの人が訪れるようになった。

 カッパブームに気を良くした町は14年から、妖怪をモチーフにした造形作品を募る「全国妖怪造形コンテスト」を開催。16年には、公園内に小屋から飛び出すてんぐ像を設置し、17年からは、町内各地にカッパやてんぐなどの妖怪と並んで座れる「妖怪ベンチ」を置いている。

JR福崎駅前に登場した妖怪ベンチでは、カッパと将棋が指せるとか
JR福崎駅前に登場した妖怪ベンチでは、カッパと将棋が指せるとか

 他にも、カッパやてんぐのプラモデルに、取られるとふぬけになるという「尻子玉」を模したウズラの卵が入ったカレーを開発するなど、独自のまちおこしを展開。一風変わったこれらの取り組みが功を奏し、町を訪れる観光客数は17年度、4年前の約1.6倍の約40万人に増えた。

 5年続いた妖怪造形コンテストだったが、18年に終了。しかし福崎町はこれに終わらない。次に仕掛けたのが、ユーチューブの福崎町観光協会チャンネルで始まった動画「ガジロウTV」だ。出演するのは、ガジロウの“キモカワさ”を余すところなく表現した特撮風の着ぐるみ(!) と、町の皆さん。4月4日に第1話「ガジロウの一日」が公開され、順次新しい話がアップされている。

 動画の長さは、1本3~5分。恐る恐る第1話を再生してみると、軽快な音楽とともに、ガジロウや子ガッパが公園の池から出たり入ったりするオープニングが。

古民家で生活するガジロウ。はんてんやせんべい布団に哀愁を感じる(福崎町提供)
古民家で生活するガジロウ。はんてんやせんべい布団に哀愁を感じる(福崎町提供)

 それから、「ガジロウの1日は、とても忙しい。なのでガジロウには、休みがない」のナレーション。1日中池で活動し、くたくたになったガジロウが、根城の古民家に帰ってお風呂に入る湯けむりシーンから話が始まる。小さなテレビで疲れを癒やし、のそのそとせんべい布団に入ったガジロウ。そこにけたたましく響き渡る「緊急出動」のサイレン。急いで駆け出すガジロウだが――。

 と話が展開していくのだが、いついかなる時も、「緊急出動」のサイレンに呼び出され、あたふたと駆け出すガジロウが切ない。お腹が痛くても出動、大好きなカレーを食べようとしても出動、高熱で診察を受けていても出動。その背中には哀愁が漂い、語らずともため息が聞こえてきそうだ。

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そんなガジロウを温かく見守るのが…