「しば田」の中華そばは一杯830円(筆者撮影)
「しば田」の中華そばは一杯830円(筆者撮影)

 修行中も様々なラーメンを食べて、その味を自分の味覚に取り込んできた柴田さんだが、実は「麺屋武蔵」で修行していた25歳の頃、衝撃的な一杯に出会っている。本記事冒頭でも紹介した、町田の「69’N’ROLL ONE」の鶏と水だけで作った醤油ラーメン「2号ラーメン」だ。これを食べた瞬間に、「醤油が主役のラーメンを作ろう」と気持ちが固まったという。

「麺屋武蔵」でラーメン作りやオペレーションなどの基本的な部分を身につけ、次の修行先に選んだのは吉祥寺の「音麺酒家 楽々」だった。店主の磯部優さん(42)が無化調の二郎インスパイア系やカレーラーメンと一風変わった“限定メニュー”を提供しているお店で、大変興味があったという。当時から醤油ラーメンで独立したい思いがあったが、いろんな種類のラーメンを作れた上でシンプルなものを突き詰めていく方が職人として成長する、そう思った柴田さんは「楽々」の門を叩いた。

「しば田」店内(筆者撮影)
「しば田」店内(筆者撮影)

 はじめは磯部さんから言われた通りにラーメンを作っていたが、そのうち自分の“限定”を作らせてもらえることに。2週に1回のペースで、柴田さんの限定ラーメンが提供されるようになる。

「磯部さんは変わった食材をラーメンに落とし込む天才です。その感覚を身につけたくて必死でした。お店もお客さんもラフな感じで自分のラーメンを受け入れてくれたので、その環境に感謝しながら作っていましたね」(柴田さん)

 その後、青森の鴨の業者さんに出会い、鴨のスープと醤油がいい化学反応を起こすことを知る。この時から、独立後を見据えたラーメンを「楽々」で提供するようになる。生醤油に厳選素材で作ったスープを合わせてラーメンを作り、お客さんの反応を見ながら少しずつ調整していった。

「しば田」の中華そば(筆者撮影)
「しば田」の中華そば(筆者撮影)

 ラーメン作りも板についてきたある日、磯部さんが体調を崩したことで「楽々」が13年7月で閉店することが決まってしまう。急きょ独立することになり、4カ月物件を探したのち、同年11月に「中華そば しば田」をオープンした。土地勘があった調布、世田谷、狛江で物件を探していたが、出店を決めた場所は京王線・仙川駅から徒歩10分強と決してアクセスがいいとは言えない所だった。

「ラーメン屋に向かって歩いている時のワクワク感っていいじゃないですか。だから、15分以内ならアリかなと思いました。小料理屋さんの居抜きで使い勝手が良さそうだったのも決め手でしたね」(柴田さん)

 近くに大きな病院やNTTの研修センターなどもあり、駅から離れているが人通りは意外と多かった。お客さんが1日40人来てくれれば生活はできる。従業員を雇わず、一人でお店を回せるように厨房も小さなものにした。ラーメンは奇をてらわない、王道の「The ラーメン」というようなものを目指し、ほっこりするけど旨いと感じられる味にこだわった。

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スープが旨すぎてもダメ