音声ガイドを開発した城西国際大学メディア学部メディア情報学科クロスメディアコース3年生の柳下藍さん(撮影/神山靖弘)
音声ガイドを開発した城西国際大学メディア学部メディア情報学科クロスメディアコース3年生の柳下藍さん(撮影/神山靖弘)

 写真を物語として語るという発想の背景には、半田さんから聞いた、ワークショップでのエピソードがある。

「写真を撮影し、3Dプリンターでプリントアウトするという視覚障害者のためのワークショップで、半田さんは自分の撮った写真に違和感を覚えたそうなんです。たとえば、りんごが一つ写っているとか、石が何個写っているとかではなく、彼女にとっての写真は『空気感』だとおっしゃった。だから、私の音声ガイドはいわゆる美術館のものとは違って、そこに行くまでの経緯とか、写っていない人の話が含まれた、物語から絵が想像できるようなものになっています」

 音声ガイドは、プロダクトとしても魅力的だ。開発したのは、城西国際大学メディア学部メディア情報学科クロスメディアコースの戸田傑ゼミに所属する3年生、柳下藍さん。

「自分の技術を公共の場に生かせてよかった。目が見えない人が重くてゴツゴツした音声ガイドを使うのは嫌だと思うので、肌触りを大切にしました」と柳下さんが語るように、今回の音声ガイドは従来の大きくて重いタイプではなく、柔らかい布製の小さなサコッシュ型。天井に設置された赤外線発信機から無線で音声データを再生するので、作品のそばに行けば、その写真の物語を作者本人の声で聞ける。

 長島さんが書く文章作品は「写真的だ」と形容されることも多く、彼女の紡ぐ言葉からは記憶のなかにある情景をイメージさせられる。そうした言葉の力が、視覚に障害をもつ鑑賞者にも写真にある情景をイメージさせるのかもしれない。

 なんとも贅沢な体験ができるデバイスだが、使用できるのは視覚障害者のみだ。

「目で鑑賞できる人が耳でも聞いてしまうと、“なにが写っているのか”の答え合わせになってしまうと思うんです。解釈が正しいか間違っているか、作家の意図がわかるかわからないかではなく、楽しんでほしい。人の持つ想像力や感受性のような、豊かな部分に働きかける作品にしたいんです」

背中の記憶2(シリーズ「本を感じる」より)/2018年/ゼラチン・シルバー・プリント/143×94.5cm(提供/横浜市民ギャラリーあざみ野)
背中の記憶2(シリーズ「本を感じる」より)/2018年/ゼラチン・シルバー・プリント/143×94.5cm(提供/横浜市民ギャラリーあざみ野)

 長島さんに多くのインスピレーションを与えた半田さんは、展覧会を鑑賞してどのように思ったのだろうか。感想を聞いた。

「とても想像力が働く展覧会だなと思いました。テーブルの形をした立体
作品の一面にプリントされた、クラブで知り合ったすてきな青年の写真とかも、その場所やその人のことがすごく想像できました。とにかくどの作品もそうで、写真一つひとつに物語があって。長島さんのとっても正直で、率直な音声ガイドも本当にすてきでした」

 三つのシリーズとも、写っているものはわかるけれど、なぜそれが写っているのかがわからない。その意味で抽象度が高い。

 その場に差し込んだ光や、指に刻まれたしわ、すり切れた爪などに向けられた長島さんの視線がはっきりと感じられる。丹念に焼きつけられたプリントにはざらりとした粒子がある。インスタレーションには写真が貼られているのではなく、木の板に直接プリントされているので、写真がそのまま立体として立ち上がっている。

 画面で写真を見ることに慣れているからこそ、そうした写真の質感に魅了され、そこから物語を感じた。

 視覚に障害をもつ人も、そうではない人も、自身の感覚を揺さぶられる展覧会だ。

(文/大室みどり)