音声ガイドを試聴する長島さん。写真になにが写っているかを物語で表現し、朗読した(撮影/神山靖弘)
音声ガイドを試聴する長島さん。写真になにが写っているかを物語で表現し、朗読した(撮影/神山靖弘)

「私にとっての写真は立体というか、オブジェクトなんだと思います。デジタル技術の進化で、写真は2次元のイメージとして、プリントアウトしなくても存在できるようになっていますが、私にとっては暗室で紙に焼きつけ、手にすることができる“モノ”なんです。プリント作業が好きだし、プリントした紙の厚みや折れも含めて全部が写真。そういう意味で写真は立体だと思うと半田さんに話したら、すごく喜んでくれました」

 プリント作業は印画紙の感光を防ぐため、赤いセーフライトのみの暗がりで行う。

「ほとんど見えない状態でも、やり慣れているから手探りで動ける。その感覚は、もしかすると半田さんの知覚の仕方に近いといえるのかも」とも語る。見るだけではない、触ってこそわかることがあるということを2人は知っているのだ。

「本を感じる」は、半田さんに『背中の記憶』を点字で読んでもらっておもしろいと感じたエピソードを聞き、その場面に登場する人物に、該当箇所を指でなぞってもらった様子を撮影した。
 
 もう一つのインスタレーションは、「半田さんに写真を楽しんでもらいたい」という思いがストレートに表れた立体作品だ。ダイニングテーブル、ソファ、昭和のお父さんが使っているような洋服ダンスといった家具を実寸大で再現し、それぞれ表面の木材に直接モノクロ写真をプリントしている。写真なのに立体であることはもちろん、長年「家のなかで起きていること」をテーマにしてきた長島さんが、家具の形をした作品をつくったという点も興味深い。

視覚に障害をもつ鑑賞者のための音声ガイド。柔らかい布製のサコッシュ型で、中に赤外線受信機が入っている(撮影/神山靖弘)
視覚に障害をもつ鑑賞者のための音声ガイド。柔らかい布製のサコッシュ型で、中に赤外線受信機が入っている(撮影/神山靖弘)

 家具にプリントしたイメージは、いつどこで撮ったのか長島さん自身もわからない写真をあえて選んだ。

「写真をプリントしたり、焼き増しをしたりするときって一番いい顔のものを選びませんか。変な顔のものはプリントしない。そうやって、永遠に「写真」にならないイメージって山ほどあると思うんです。写真には大事だったり意味があるような、厳選されたイメージが写っていると思われがちなので、そもそも覚えていない画像をプリントしてみたらどうだろう、と思いました。すぐに意味を探そうとする思考の道筋を裏切りたいんです。作者自身がよくわからないものを、みんなでふーんと鑑賞するのがおもしろいんじゃないかといま思います」

 視覚に障害をもつ鑑賞者は、白手袋をつけてこの作品を触ることができるし、音声ガイドを使って作品について長島さんが新たに書き下ろした文章を自ら朗読する声を聞くことができる。

 音声ガイドで朗読されるのは、どんな内容なのか。

「写真に写っていることがらを物語で表現しています。写っているものがなんなのかを単に説明しているわけではないんです。例えば、アルバムを見ながら誰かと話すとき、『このあとおにぎり落としちゃったの』というように、写っていない出来事の話もするでしょう。そういうことに近いです」

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文章でも「写真的だ」と形容