(写真左)車内に日本語の表記が残っている。乗客にお願いし、「開」のドアボタンに指を添えてもらった (写真右)ラッピング塗装が施されたこの車両は「久留里線」で使用されたものだ。列車の走行写真を記録しようと、ロケハンして探した(写真/米屋こうじ)
(写真左)車内に日本語の表記が残っている。乗客にお願いし、「開」のドアボタンに指を添えてもらった (写真右)ラッピング塗装が施されたこの車両は「久留里線」で使用されたものだ。列車の走行写真を記録しようと、ロケハンして探した(写真/米屋こうじ)

 列車先頭の行き先表示には、漢字で「試運転」や「回送」、もとJR東海の車両では「多治見」「美濃太田」など太多線(たいたせん)の地名が見られる車両もある。列車の車内は、座席こそプラスチック製のベンチだが、「優先席」や「ドアに注意」などの表示が残る。

 ヤンゴン環状線の風景で日本と大きく違うのは、車内に物売りがいることだ。山手線に食べ物や飲み物の車内販売があるようなもので、大きな皿にカットしたスイカを並べ、頭の上に載せて売り歩く様子など、スナップすれば楽しい。

 ヤンゴン環状線に乗車する場合は、駅窓口であらかじめ切符を購入しよう。料金は200チャット(約15円)で一周できる。運行本数は1時間あたり最大でも4本程度で、全線一周する列車は少ない。

マンダレー駅を夜明け前に出発した長距離列車。列車から見る日の出のシーンは格別だ。車窓風景はワイドレンズで撮ってしまいがちだが、あえて望遠ズームを使用して列車の姿と山の端から昇る朝日を入れて撮影した。終点のヤンゴンまで道のりは遠い(写真/米屋こうじ)
マンダレー駅を夜明け前に出発した長距離列車。列車から見る日の出のシーンは格別だ。車窓風景はワイドレンズで撮ってしまいがちだが、あえて望遠ズームを使用して列車の姿と山の端から昇る朝日を入れて撮影した。終点のヤンゴンまで道のりは遠い(写真/米屋こうじ)

■長距離列車の旅。車内の物売りが楽しい

 その土地に暮らす人々と触れ合いたければ、長距離列車に乗るのが手っ取り早い。ボックス座席で一緒になるので、自然とコミュニケーションが生まれる。列車の中では相手も退屈なので、たとえ言葉は通じなくても、気長に付き合ってくれるだろう。

 そのような目的も含めて長距離列車に乗るので、座席は日本のグリーン車に相当する「アッパークラス」よりも、普通車に相当する「オーディナリークラス」を選択する場合が多い。こちらのほうがより人々との親密度が高くなるからだ。ただし本当に始発から終点まで、オーディナリークラスに乗ろうとすると、少しばかりの覚悟が必要となる。

 例えば、ミャンマーで最も主要な鉄道路線は、最大都市のヤンゴンから首都のネピドーをかすめ、第二の都市マンダレーを結ぶ路線であるが、距離にして約620キロある。これは東京から東海道、山陽本線を通って兵庫県の加古川までの距離にほぼ等しい。同区間を直通する列車は1日4往復と設定されている。寝台車を連結した夜行列車もあるが、車窓風景を眺めたい、加えて列車に乗る人々の様子も撮影したいと思うと、昼行の急行11UP列車に乗るのが適当な選択だ。

 この急行11UP列車はヤンゴンを朝6時に出発し、マンダレーに到着するのが夜9時で15時間かかる。オーディナリークラスの座席はプラスチック製で硬いので、考えただけでお尻がすり切れそうだ。さらにエアコンがなく窓が全開。騒音、直射日光、風、ほこりを浴びながらの旅となる。そのような事情ゆえ、ヤンゴン│マンダレー間を移動する人は、高頻度に運行されエアコンの効いた高速バスを利用するか、お金に余裕のある人は飛行機を利用しているようだ。

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いつも混んでいる車内