平成時代のベストセラー(1/3)
平成時代のベストセラー(1/3)

 ポケベルが携帯電話に代わり、1990年代からインターネットが爆発的に普及。そしてスマートフォンの登場で、誰もが、いつも誰かとつながっているSNS社会が到来した。平成の移り変わりは、メディアにとって激変の時代でもあった。

【表】平成時代のベストセラー(1989~2018年)

 出版業界も大きく変わった。それまで右肩上がりの成長を続けてきた書籍と雑誌の売り上げは、1996(平成7)年をピークに減少に転じる。出版科学研究所(東京)の調査では、2018(平成30)年の出版物の推定販売金額は1兆2800億円で、1996年の半分を下回る見通しだ。

 ただ、雑誌や漫画本の売り上げが激減しているのに対し、書籍はピーク時の7割程度で推移している。今年も前年比3%減の約6900億円前後の売り上げとなる見通しだ。「漫画 君たちはどう生きるか」(マガジンハウス)や「ざんねんないきもの事典」(高橋書店)などのヒットが書籍の売り上げを下支えした。出版科学研究所の川瀬康裕研究員は、こう話す。

「雑誌の読者はネットに移っていった一方で、平成のベストセラーは、一貫して小説、エッセイ、実用書、児童書などが入っています。実は売れている本のジャンルに大きな変化はありません。今は情報があふれる時代ですが、話題作やヒット作がテレビなどに取り上げられることによってブームになるという構造は変わっていません」

 たしかに、本のベストセラーは、時代ととも生まれ、あるいは時代を彩ったものが多い。平成もそんな時代だった。では、平成のベストセラーは、どんな“ブーム”を起こしたのだろうか。

 まずは、30年前の1989(平成元)年。最も売れたのは、吉本ばななの「TUGUMI」(中央公論社)だ。1988(昭和63)年にデビューした吉本は、詩人で文芸評論家の吉本隆明を父に持つ。重厚かつ難解な文章で知られる父とは対照的に、親しみやすい文体の小説で「ばなな現象」を巻き起こした。この年には、デビュー作の「キッチン」や「白河夜船」もベストセラーに。また、この年は昭和天皇美空ひばりという昭和を代表する人物が亡くなった年でもある。「写真集 昭和天皇」や「愛蔵版 美空ひばり」(ともに朝日新聞社)も売れた。

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バブル景気に売れた本は?