実はこの時、ラーメンへの興味は一切なく、食べるといえばインスタントラーメンぐらいだったという。そんな石塚さんの価値観は「ガチンコ!」に出演することで一変する。寸胴に信じられない量の食材を入れ、100人前のスープを一気に作るラーメン作りの世界、そして何より食材や製法に対する佐野さんのこだわりを目の当たりにしたことでその奥深さを知ってしまう。

 イタリアンは値段の壁がない分、立地やお店の作りなど味以外の部分で悩むことも多いという。たとえば、15000円のコースを出すならばそれなりの場所でやらなくてはならない。逆にラーメンは1000円前後という値段の壁はあるが、どこでも勝負できると感じた。

「一品勝負のパスタ専門店を出そうと考えていた頃にお話をいただきました。“丼の中”だけで勝負するラーメンがとても興味深く、イタリアンとは違う制約の中で勝負したい気持ちが湧きました」(石塚さん)

 そんな思いで修業を続けるうちに、番組で立ち上げた店「ラーメン道」引き継ぎの話が舞い込み、2005年「ラ チッタデッラ川崎」にて「ラーメン道Due Italian」オープンする。「Due」とはイタリア語で数字の「2」を表す言葉。イタリアンとラーメン「2」つの顔、そして自分の第「2」の人生という意味を込めた。

 こうして石塚さんのラーメンシェフとしての新たな人生がスタートした。

イタリアン出身の店主・石塚和生さん(筆者撮影)
イタリアン出身の店主・石塚和生さん(筆者撮影)

 お客さんの反応に自信をつけ、2009年には市ヶ谷に「黄金の塩らぁ麺 Due Italian」をオープンする。内装はイタリア風にし、他のラーメン屋とは一線を画した。佐野さんへのリスペクトがあったのだろう、スープの取り方にはイタリアンの手法を応用したものの、当初出していたのは塩らぁ麺と醤油らぁ麺のみ。近隣に女子大があったこともあり、お客さんの5割は女性だった。

 2011年頃からイタリアンラーメンに着手し、トマトラーメンやチーズラーメンを提供し始める。スープパスタを応用し、ラーメンとして食べたほうがより美味しいと感じるものだけをメニュー化した。石塚さんの舌にしか分からない感覚的なものが大きいと思うが、人気がすべての答えだろう。今や女性客が7~8割を占め、女性をラーメンに取り込んだ立役者としても「Due Italian」は有名になる。

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らぁ麺フロマージュがなぜ魅力的なのか