日本に数多あるラーメン店の中でも、屈指の名店というものがある。長く日本人の舌を喜ばせてきた老舗、一大ブームを作った名店の店主といえど影響を受けた店はあるはず。今回は“ラーメンの鬼”と呼ばれた佐野実さんが1986年に開業した神奈川の名店「支那そばや 本店」に迫る。2014年に佐野さんが亡くなった後も、変わらず味を守り続ける奥様の佐野しおりさんがプライベートで通い詰めるラーメン屋を紹介する。食材や製法にどこまでもこだわる“鬼”の後を受け継ぐしおりさんが愛する一杯には故・佐野実さんとの思い出が詰まっていた。

【写真特集】名店の歴史をたどる! 徹底的にこだわりつくしたラーメンとシンプルな一杯(全7枚)

支那そばやの山水地鶏ワンタン醤油らぁ麺(筆者撮影)
支那そばやの山水地鶏ワンタン醤油らぁ麺(筆者撮影)

■とにかく佐野実と同じ舌を持たなければ 受け継ぐ妻の“プレッシャー”

 神奈川の名店「支那そばや 本店」は創業者である佐野実さんが藤沢の鵠沼海岸で開業したお店だ。

 ラーメンを、そして食材を誰よりも愛していた佐野さん。豚や鶏、魚介などのスープの材料や、麺に使う小麦、醤油や塩などの調味料はもちろん、お水や浄水器に至るまで独自のネットワークを切り開いてきた。たとえラーメン自体が化学調味料不使用だったとしても、原材料にまで使用していないかどうかはわからない。「自分の目で見たものしか使わない」と全国を行脚しながら生産者と会って食材を吟味し、徹底的にこだわった一杯を作り続けてきた。佐野さんが亡くなった後も、奥様のしおりさんとお弟子さんによってその味は守られ続けている。

 実は、しおりさんは福岡の出身。幼いころからラーメンといえば豚骨で、関東の醤油ラーメンは食べたことがなかったという。実さんと出会い、初めて“鬼”のラーメンを食べさせてもらった時の思い出をこう語る。

「『こんなに美味しいものがあるんだ!」と感動したのを覚えています。奥深いし、食材へのこだわり、作る工程も半端じゃないだろうなと食べただけでわかりました」

 実さんとともにお店に入るようになったしおりさん。一歩でも近づくべく、全く同じものを食べるようにしていたという。そうすれば、同じ舌を持つことができるかもしれないと考えた。しかし、そこはラーメンの鬼。実さんの徹底ぶりは凄まじかった。

著者プロフィールを見る
井手隊長

井手隊長

井手隊長(いでたいちょう)/全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

井手隊長の記事一覧はこちら
次のページ
「毎日寿司ばかり食べることも」