ひょっとしてご覧になった方がいるかもしれないので、参考までに書いておくと、12本シリーズ共通のオープニング映像で、ゆっくりと坂を登ってくる白いワンボックス・カーを運転しているのが僕です。

 低予算、少人数、文字どおり「アポなし」の旅。朝陽を背に受けて走りはじめ、ハンドルの向こうの空が茜色に染まるころにたどり着いた町で宿を探す。その繰り返しの2週間。いろいろなことを教えられたその旅の途中、近年の映画でいうと『カーズ』でも描かれていたような「時代の流れからとれ残されてしまった町」をいくつも体験している。ゴーストタウン、朽ち果てた給油機、看板だけが残されたモーテルや映画館なども、数えきれないほど目にした。オリジナルのルートを走ることにこだわったが、もうその旧道の跡すら消滅しているエリアも少なくなかった。

ミズーリ州のモーテルのネオン(撮影/大友博)
ミズーリ州のモーテルのネオン(撮影/大友博)

 そういった社会的考察はさておき、ルート66は、旅の前に想像していた以上にたくさんの音楽的インスピレーションを与えてくれた。

 臭い表現だが、たとえば荒野を走り抜けていくときなど、まるで乾いた風景が音楽を奏でているような印象なのだ。日本にいるとわかりにくい「土地が音楽を生む」という感覚を少しばかり理解できたような気もした。

 60年代半ばから70年代前半にかけて、ロックの世界で大きなことを成し遂げたいという夢を抱いたたくさんの若いミュージシャンたちがアメリカ各地からカリフォルニアを目指した。そのとき彼らは、ほぼ例外なくルート66をたどっているはず。

アリゾナ州を走る列車(撮影/大友博)
アリゾナ州を走る列車(撮影/大友博)

 実際にそこでの経験がもとになったと思われる曲もあり、その代表格がイーグルスの「テイク・イット・イージ」だ。彼らのデビュー曲となったあの曲は、もともとはジャクソン・ブラウンの作品で、ほぼ書き上げてはいたものの、2番の歌詞に満足できずにいたという。そのとき、同じアパートで暮らしていたグレン・フライが「アリゾナ州ウインズロウの街角に立っていると?」というフレーズを提案し、それでようやく、完成をみたというのだ。

アリゾナ州ウインズロウの街角(撮影/大友博)
アリゾナ州ウインズロウの街角(撮影/大友博)
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