米国の音楽や文化の源となり「マザー・ロード」とも呼ばれる「ルート66」。数々のアーティストが作品の舞台に選んだ米国で最も知られた道だが、今は存在しない。音楽ライターの大友博さんは、その道を過去に辿ったことがある。当時の記憶を写真とともに語る。

【写真特集】街がなくなり、廃墟も……消えた「ルート66」

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ニューメキシコ州アルバカーキ周辺の旧道(撮影/大友博)
ニューメキシコ州アルバカーキ周辺の旧道(撮影/大友博)

 つい先日のことだ。なにが目的だったかは忘れてしまったが、あっちのサイトからこっちのサイトへとあれこれ調べ回るうち、1926年11月、つまり91年前のちょうど今ごろ、U.S.ルート66が完成したことを知った。

 イリノイ州シカゴからミズーリ州、オクラホマ州、カンザス州、テキサス州、ニューメキシコ州、アリゾナ州を抜けてカリフォルニア州ロサンゼルス/サンタモニカへと至る約4千キロの道。スタインベックの『怒りの葡萄』、ケルアックの『オン・ザ・ロード/路上』、映画『イージー・ライダー』などさまざまな名作で重要な役割をはたし、「メイン・ロード・オブ・アメリカ」、あるいは「マザー・ロード」とも呼ばれてきたあの道だ。

 ナット・キング・コールからローリング・ストーンズまで多くのアーティストによって歌われた「(ゲット・ユア・キックス・オン)ルート66」、日本でも放送されたテレビ・シリーズ『ルート66』などの影響もあってか、ルート66の知名度は抜群だ。アメリカをイメージしたバーやライヴ・ハウスなどでルート66関連のステッカーやポスター、ナンバー・プレートなどを目にすることも多いだろう。

 もっともよく知られたアメリカの道といっていいかもしれないが、実は、ルート66という道はもう存在していない。インターステイト・ハイウェイ(州間幹線道路)の普及など近代化の波を受けて80年代半ばに公式な全米道路網から外され、すでに「幻の街道」となってしまっているのだ。

テキサス州の廃屋(撮影/大友博)
テキサス州の廃屋(撮影/大友博)

 ちょうど20年前ということになる97年の秋、CS系旅番組のための撮影取材にスタッフとして参加し、その「幻の街道」4千キロの道のほぼ全行程を走る機会を得た。音楽をベースに編集していくという方針が事前にたてられていて、その選曲が主な仕事だったのだが、いろいろな事情があって、イリノイ州を走る途中で僕がハンドルを握ることになり、そのままサンタモニカまで前方左側の席に座りつづけたのだった。

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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