(イラスト/majocco)
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「ハッパあるよ」

 そう言ってポケットからマリファナの詰まった小袋を出してきた。さすがに一瞬固まったが、現物を見せられたことで、この人たちのグループがどういう存在であるかがすぐわかった。私と距離をとっている他のメンバーは突然現れた外国人(日本人)に対して警戒心をむき出しにしていたのだ。いったい何の目的で来たのかと。

 この予想が正しかったことを証明するかのように、男が声をかけてきた。

「Do you want that one?」(それで、お前は買いに来たのか?)

「No, I am just researching.」(買いにっていうか、調べに来ただけだよ)

「What? Are you a journalist?」(どういうことだ? ジャーナリストか?)

「I'm a tourist.」(ツーリストだよ)

 私が男とモメるかと思ったところで男から助け舟ともいえるひと言が出た。

「Get out of here!! Now!!」(早いところ帰んな!)

「OK. thank you.」(わかったよ)

(イラスト/majocco)
(イラスト/majocco)

 無用なリスクを回避するためにも早々に退散することにした。偶然出会った相手だったので、この場所を立ち去ってしまえば二度と会うことはないだろう。

 つながりのない相手に取材することは簡単である。出会って話をすればいいだけだからだ。ただし、このときのようにトラブルに発展しても自己責任なのである。

 とはいえ、日中であることと、公共の場である公園での出来事なので、そこまで警戒すべきことではない。これが夜中のスラム街だったら、さすがに警戒度はマックスだっただろう。

 さて、この取材で、冷静になってみると見えてくることがひとつあるのでお伝えしておきたい。ホームレスの男性は日本人を見慣れていた。そして、自分に日本人が近寄ってきた理由はマリファナの購入だと思っていたことである。なぜ、そのようなことが断言できるのかといえば、男の使った日本語は、販売に特化した言い回しだけで、マリファナも日本人に伝わりやすい隠語である「ハッパ」にしてあったことだ。

 この言葉が通用することから、どのぐらいの数かはわからないが、ハワイを訪れる日本人のなかにマリファナを求めてくる人がいることがわかる。

 ホームレスの取材をしている過程でたまたま見えた、楽園の裏の顔だった。

(文/ジャーナリスト・丸山ゴンザレス、イラスト/majocco)

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丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立し、現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員。著書に『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)など。

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