この質問でおじさんの警戒心が薄れたのを感じた。いきなり魚を見て外国人が「ご飯ですか?」と聞いてきたことにおじさんは妙に笑ってくれたのだ。これは私の狙い通りだった。というのも、英語で取材をしていて感じるのは、相手を笑わせるユーモアのセンスがいかに大事なのかということである。日本人には馴染みのない感覚かもしれないが、笑ったらそれはある種の負けなのである。相手の要求をそのままむげに突っぱねるのは非常にダサい行為とされてしまう。だからこそ、稚拙というかシンプルな英会話にもかかわらず、ここで笑いが生まれたのは、取材としては大成功といえる。

 この後は打ち解けた空気が生まれたので、少し踏み込んで聞いてみることにした。

「Do you fish every day?(釣りは毎日やっているんですか?)」

「Yes, everyday fishing.(そうだよ)」

「Do you live near here?(この近くに住んでるんですか?)」

「That’s park.(そこの公園さ)」

 私としてはおじさんがホームレスだろうとは思っていたが、少し遠回しな聞き方をしたほうがいいと考えて、そう聞いたのだ。そのやり方が良かったのか、おじさんは突然話しかけてきた東洋人にまったく警戒心を抱かなくなった。こういうときには、一気に攻めるのが得策である。

「Do you fish every day to get food?(毎日釣りをしているのは、食べ物を得るためですか?)」

「Yes. I have nothing to do.(そうだね。でも、ほかにすることがないから)」

(イラスト/majocco)
(イラスト/majocco)

「Have you ever seen that another homeless is fishing?(釣りをするホームレスは他にもいるんですか?)」

「Never.(見たことないね)」

「There isn’t a fishing enemy. You become happy.(ライバルがいないし、ご飯が食べられてハッピーですね)」

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