なぜならAV出演被害は、契約がしっかりしていれば被害がなくなる類いのものではないからだ。契約がしっかりしているからこそ、被害を訴えられない現実がある。だからこそ、重要な法律を議員立法で拙速に成立させてしまう前に、どのような被害があるのかを調査し、AVそのものの定義も含め丁寧に議論していくべきだった。

 あれから1年。

 この1年は、性搾取問題に関わってきた人には、これまで味わったことのない厳しいものだったのではないかと思う。AV新法をめぐっては、フェミニストの中でも意見が割れた。「目の前の被害者を救うことを優先させるべき」と新法施行に賛同した人も多かった。性産業で働いていた女性たちが新法に反対する声をあげる場で、「性産業を差別するな」と怒りを露わにするフェミニストもいた。フェミニストと自認していても一枚岩で同じ方向を向いているわけでは決してなく、特に性産業については激しく意見が対立するのがあからさまになった1年でもあった。そして、AV新法の問題点を鋭く強く発信していたColaboの仁藤夢乃さんが、この1年でどのような目にあってきたのかは、多くの人が知るところだろう。

 性産業に巻き込まれる若年女性の現実はますます残酷になっている。歌舞伎町には、娯楽や観光のように若い女性たちを「買う」ことを厭わない買春者たちが文字通り列をなすように集まっている。性搾取は「誰も傷つけないエロ」の顔をして巨大な娯楽になっている。一方で、「AV新法のおかげで業界が萎縮した」「AV新法は業界差別だ」という声は新聞などでも報じられ、AV新法の廃止を求め、性産業の合法化を求める声は以前よりも大きくなってきた。AV新法を推進した支援団体はのきなみ、毎日のように陰湿な嫌がらせ、誹謗中傷に悩まされてもいる。AV新法は、いったいこの国のどのような「蓋」を開けたのだろう。そのことが明確に分かるのはもう少し先なのかもしれない。

 AV新法の見直しは今から1年以内だ。1年後、この社会がどのような道を選ぶかが問われる。