巨人・小林誠司
巨人・小林誠司

 優勝チームに名捕手あり。これは自身も球史に残る名捕手だった故・野村克也氏の言葉である。しかし3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも甲斐拓也(ソフトバンク)と中村悠平(ヤクルト)の併用となったように、現役でナンバーワンの捕手は誰かが分からないような状況と言える。ではここまでのペナントレースで各球団の捕手事情はどうなっているのだろうか(※成績は5月18日終了時点)。

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 まず現時点で規定打席に到達している捕手は大城卓三(巨人)、木下拓哉(中日)、坂倉将吾(広島)、森友哉(オリックス)の4人。しかし森に関しては指名打者での出場も多く、捕手として完全に固定されているわけではない。そして残りの3人が所属している球団を見ると、広島は3位となっているが巨人は4位、中日は6位と苦戦している。今シーズンのここまでを見ると、正捕手を固定できている球団が必ずしも強いとは言えない状況だ。

 さらに興味深いのが現在上位にいるチームの状況だ。セ・リーグで首位を走る阪神は正捕手の梅野隆太郎が打率1割台前半と極度の不振に陥っており、守備の指標もここまでは芳しくない。2番手捕手の坂本誠志郎がよくカバーしているとも言えるが、決して他球団と比べて捕手が強いというわけではないのが現状である。またセ・リーグ2位のDeNAも捕手は固定されておらず、戸柱恭孝、伊藤光、山本祐大が日替わりでマスクをかぶっている。そして彼らも決して個人成績に突出したものはない。パ・リーグ首位のロッテも佐藤都志也と田村龍弘、3位のソフトバンクも甲斐と嶺井博希の併用となっているが、揃って打率は1割台と打撃面では結果を残していない。佐藤や甲斐の守備面の貢献はもちろん大きいものの、この打撃成績で“名捕手”と言い切るのには違和感を覚えるファンも多いはずだ。

 ただそれでも正捕手を固定できていない球団が上位にいるということは、やはり捕手はある程度打てなくても守備面、特に投手の良さを引き出すことがより重要になってきていると言えるのではないだろうか。規定打席に到達している4人は確かに打撃には定評があるものの、リード面ではまだまだという評価も多い。特に今年から正捕手に固定された坂倉はキャッチングやスローイング面でも苦しんでおり、それが持ち味である打撃にも影響している部分もありそうだ。以前と比べても投手の投げる球種は多くなっており、さらにそのボールに関するデータも膨大になっている。そんな中で投手の良さを引き出そうと思ったら、その投手の特徴や相性に合わせて捕手を使い分けるという戦い方が今後の主流になっていくことも十分に考えられるだろう。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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