写真はイメージです(GettyImages)
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 全国の小中学、高校(特別支援学校も含む)でいじめ保険の需要が高まっている。文部科学省によると、2021年度のいじめ認知件数は61万5351件となり、過去最多を記録した。10年度と比較すると約8倍の増加だ。そうしたなかで今、「いじめ保険」というサービスが話題になっている。いったいどんな保険なのか、専門家に聞いた。
 
 東京海上日動火災保険が3月、子どもがいじめやネット上でのトラブルにあった場合に、臨床心理士によるカウンセリング費用や、転校する場合にかかる費用、入学金、制服代、教材代などを補償する特約を今年10月から始めると発表した。
 
 個人での契約ではなく、学校かPTA単位で加入する保険につける形だ。カウンセリングは、国会資格の公認心理師を保有している臨床心理士のほか、病院の精神科医なども含まれるという。

 対象は、小中学、高校の児童生徒で、値段は契約条件によって異なるが、月額概算保険料は個人換算で120円。入学金や転校費用など上限で20万円まで補償される。
 
 学校などの教育現場で起きている事案については、まずは学校が対処して解決を図ると見られるが、名古屋大学の内田良教授(教育社会学)は、
 
「いじめは基本的に起きるもの。ただ学校の先生だけでは、対応しきれません」
 
 と指摘した上で、こう説明する。
 
「いじめが起きても、教員や校長、教育委員会は事態をなかなか把握できず、いじめの事実をなかなか認定できません。また保護者単独では何をしてよいのかわからないこともあります。弁護士や保険会社など第三者が入って話し合いが開始されると期待されます。いじめ保険の広がりは、いじめの減少につながるのではないでしょうか」
 
 学校の先生はなぜいじめの実態を把握できないのだろうか。
 
 大きな要因としては「労働環境の悪化」があげられる。例えば、公立の小中学、高校の教員は残業代が出ない。1971年にできた、公立学校の教員の給与について定めた特別措置法(特措法)では、時間外の手当は出ない代わりに、月額給与の4%が加算されることとなった。特に部活で多忙な公立中の教員は土日も働くことが多く、月に400時間働いても手取りは25万円に満たない。

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第三者の存在が教育現場に必要