※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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世界各国の研究機関で、70歳以上の高齢者の知識力に関するポジティブなデータが次々と発表された。「結晶性知能」と呼ばれる知能は、むしろ年齢とともに上昇し、60代ごろにピークを迎えるという。こうした人間の「知能」の不思議について 精神科医として30年以上高齢者医療の現場に携わる和田秀樹さんに解説してもらう。(朝日新書『70代から「いいこと」ばかり起きる人』から一部抜粋)

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「年をとると、脳が衰え、やがて認知症になってしまう」

 私たちはこんなふうに、よくない変化に目を向けがちです。しかし、世界の研究を見てみると、年をとっても衰えない脳の機能や、年をとっても伸び続ける脳の機能があることがわかってきました。

 約5000人を対象に、加齢による脳の変化を追跡調査してきた米ワシントン大学の「シアトル縦断研究」によれば、認知力を測る6種のテストのうち、記憶力と認知のスピードは加齢とともに衰えが見られたものの、言語力、空間推論力、単純計算力、抽象的推論力はむしろ向上していました。

 また、記憶力の低下は個人差が大きく、被験者の15%は、若いときより年をとってからのほうが記憶力が優れていました。

 また、カルレ・イリノイ医大の研究でも、意外な結果が出ました。40~69歳のパイロットの認知力を比較したところ、新たなフライトシミュレーターの操作方法を習得する時間は高齢者のほうが長かったものの、衝突回避の成功率は高齢者のほうが高かったのです。

 日本でも興味深い研究が行なわれています。

 東京都健康長寿医療センター研究所の追跡調査では、語彙、理解力、計算問題など、文字や言葉で答えるテストで診断する「言語性IQ」は、年をとってもそれほど落ちないという結果が出ました。

 本屋さんに行くと、若者よりお年寄りがたくさんいることからも、なんとなく想像がつくと思います。

 また、積み木や絵の組み合わせといった、パズルのような問題で診断する「動作性IQ」についても、70代ではそれほど大きな衰えは見られませんでした。

 さらに、知能には「流動性知能」と「結晶性知能」という分類があるのですが、後者に関しては、高齢になっても衰えない、むしろ成熟するというデータがあります。

 流動性知能とは、新しい環境にすばやく適応するために、情報を処理し、操作する能力で、暗記力、計算力、直感力などにあたります。これはデータによって若干異なる場合がありますが、20歳が頂点で、その後だんだんと落ちていき、40代以降になると急速に下降するという報告があります。

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結晶性知能が流動性知能をカバーする