放送作家の鈴木おさむさん
放送作家の鈴木おさむさん

 放送作家・鈴木おさむさんが、今を生きる同世代の方々におくる連載『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は、アカデミー賞授賞式を見て感動したエピソードについて。

【写真】アカデミー賞で授与されたオスカー像はこちら

 * * *

 アメリカのアカデミー賞が発表になりました。映画界の歴史を変えたであろう、今回のアカデミー賞。「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(以下「エブエブ」)が7部門を受賞。なんと言っても、主演女優賞のミシェル・ヨー、そして助演男優賞のキー・ホイ・クァンの受賞は胸を打ちました。アジア人で初になるわけですから。

 ミシェル・ヨーと言えば、ぼくの中では「ポリス・ストーリー3」。香港の女版ジャッキー・チェンの印象が強いです。そのミシェル・ヨーがまさかのアカデミー、主演女優賞。

 個人的にはそれよりも驚いたのが助演男優賞でのキー・ホイ・クァンの受賞。クァンと言えば、今年50歳の我々世代にとってはたまらない存在。スピルバーグ監督、ハリソン・フォード主演の「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」で、子役として大活躍。アジア人がインディー・ジョーンズと冒険を繰り広げることに親近感を覚え、当時子供だった僕は憧れ、そして彼の活躍に興奮した。映画「グーニーズ」にも出演し、世界的人気子役になったのだ。だが、そのあと彼の姿を見る機会がなくなってくる。

 1980年代当時のハリウッドでは、アジア系の俳優に与えられる機会は少なかったようで、あんなに大活躍した彼も、一度は俳優業を諦めることになったのだとか。それから、裏方として映画界で仕事をしていたクァンだが、それから40年後、オーディションにより、「エブエブ」に受かり、しがないコインランドリーのダメな主人を演じることになる。そしてそれでアカデミー賞の助演男優賞を獲得するのだ。

 クァンはスピーチで、自宅で見ている母に「お母さん、たった今オスカーを獲ったよ」と叫ぶ。「私の旅はボートで始まりました」という言葉から始まる挨拶。そうです。彼はベトナムの難民で、ボートでアメリカに着いたんですね。それで、インディー・ジョーンズのオーディションに合格し、一度目の奇跡。

アカデミー賞授賞式の会場に置かれたオスカー像=2023年3月12日
アカデミー賞授賞式の会場に置かれたオスカー像=2023年3月12日
著者プロフィールを見る
鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

鈴木おさむの記事一覧はこちら
次のページ
インディー・ジョーンズのあの名コンビが