鴻上尚史さん(撮影/写真部・小山幸佑)
鴻上尚史さん(撮影/写真部・小山幸佑)

 12歳の息子が余命一年と宣告され、懊悩する55歳男性。仏教の本を読んで生命について考えていると告白する相談者に、鴻上尚史が差し出した心からの感謝と祈りと言葉。

【音声で聴く】鴻上尚史が「人生相談」に込める思い

【相談176】12歳の次男が小児がんになり、余命一年と言われました(55歳 男性 飛行機)

 鴻上様、いつも楽しく読ませて頂いています。著書も買わせて頂いております。

 50代の父親です。私の次男12歳が小児がんになりました。難病で、1年半かけて入院し、治療をしました。その間、妻はつきっきりで、私と長男(高2)は2人で生活をしていました。決められた治療を終え、良好な兆しが見えて退院したものの、再発しました。難病ゆえ、再発したら手立てはないと言われています。あと1年くらいの余命だとも言われました。

 現在は特に症状もなく、退院し、自宅でゲームをやったり普通に食事をしたりしています。でも完治したわけではないので、この先にくる未来を考えると胸が塞がります。どうやって精神のバランスを取ればいいのか、この状況をどうやって納得すればよいのか、全く分かりません。

 仏教の本を読んで、生命について考え、答えを見つけようとしていますが、答えなんてないのかもしれません。何とか本人の前では明るくいるようにしています。妻も明るく強い素晴らしい女性なので、何とか日々を過ごしています。長男も明るく過ごしています。本人も明るく元気で、本当に可愛くていい子です。それが救いです。家庭内には笑いもあって、何らいつもと変わらない日々を過ごしています。

 仏教では因果応報という言葉が出てきます。結果には必ず原因があるということでしょうか。でも、息子のがんに原因はないんです。大人のがんと違い、不摂生やストレスが原因ではなく、細胞分裂の際のコピーの失敗、などと言われています。でもその痛烈な一撃が我が家にやってきてしまったのです。

 何とか踏ん張って、仕事もしていますが、仕事ができている自分が不思議なくらい、頭の中はぐちゃぐちゃです。仏教に助けを求めようとしても、因果応報と言われると、原因なんてない!と叫びたくなります。なぜうちの子が?と考えてもしょうがない、理由も原因もないんだ、ただ運命を受け入れて、今を精一杯生きるのだ、と自分に言い聞かせて、何とか立っています。何か悪いことをしたから病気になったわけではありません。ただ、病気になったんです。それを受け入れろ、と言われているんです。鴻上さんへ何を聞きたいのかも分かりません。ただ、こういうことを聞いて欲しいだけだったのだと思います。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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