昨年12月21日、東シナ海で中露が合同軍事演習(写真/アフロ)
昨年12月21日、東シナ海で中露が合同軍事演習(写真/アフロ)

 門間部長は続ける。

「台湾有事が発生した際、一つの可能性として、日本には『中立』という選択肢が確かに存在します。ただ、それによって中国からの攻撃を避けられたとしても、その後の国際社会における日本の立ち位置は非常に弱くなる危険性があります。アメリカとの関係はぼろぼろ。今まで日本が一番好き、と言ってくれた台湾との関係は最悪に転じます。他の国からも日本は『台湾や米軍を見捨てた信用できない国』と見られるかもしれない。果たしてそのような状況に日本は耐えられるでしょうか。そのへんをよく考えておく必要があります」

■防衛費増額は必要コスト

 最もよいのは、台湾有事が起こるのを未然に防ぐことである。それにはどうしたらいいのか?

「一つ目は南西諸島方面を中心とした防衛力を強化することです。もし攻撃されたら、相手からのさらなる武力攻撃を防ぐため、有効な反撃を相手に与える能力を保持しておく。二つ目は、アメリカとの同盟関係は誰も間に割って入れない非常に強固なものである、と中国側に認識させておくことです。もし、台湾有事になったら、米軍が出てくる。その際に日本が米軍に対して基地使用を認めないとは到底考えられない、と受け取らせる」

 中国が武力による台湾の統一を考える際、この二つを非常に嫌がる。人民解放軍が極めて厳しい戦いを強いられる要因だからだ。

「核心的利益である台湾の統一を目指したことによって甚大な損害を被れば、中国共産党政権の屋台骨を揺るがすような事態になります。なので、この2点は台湾有事を抑止する有効な方策だと考えます」

 現在、防衛費増額にともなう財源をめぐって国会で論戦が続いている。

「防衛費を大幅に増やすことに不満の声も上がっています。ただ、いざ有事となれば、諸外国が絡んでくる問題なので戦費のコントロールが困難になることは明らかです。そのような事態が起こらない仕組みづくりに予算を費やしたほうが長期的なコストは低く抑えられます。現代においても侵略が行われることをロシア・ウクライナ戦争はまざまざと見せつけました。防衛省・自衛隊は『まさか、攻めてくるとは思わなかった』では済まされない組織です。なぜ防衛費増額が必要なのか、国民に丁寧に説明しつつ、粛々と適切な準備をしておくことが戦争を遠ざける道だと、私は思っています」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)