部隊視察で10式戦車に乗車する岸田文雄首相
部隊視察で10式戦車に乗車する岸田文雄首相

 23日に開会した通常国会で、岸田文雄首相は施政方針演説を行い「外交には裏付けとなる防衛力が必要」と述べ、改めて「防衛費増額」を訴えた。だが各社の世論調査では、防衛費増に伴う増税には否定的な意見が多く、テレビ朝日の世論調査では岸田内閣の支持率は28%と過去最低を更新した。軍事の“専門家”は、岸田首相が推し進める防衛費増額をどう捉えているのか。元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)の香田洋二氏に聞いた。

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「失礼を承知で申し上げると、岸田首相の演説は50点以下です」

 かつて海上自衛隊現場トップの自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は、岸田首相の施政方針演説を厳しく採点した。その理由をこう説明する。

「防衛費増額についての岸田首相の説明は、ほとんど体をなしていなかった。本当に国民の理解を得ようとする気持ちがあるのかと問いたい。説明があまりにも抽象的、概念的すぎて、あれでは国民に何も伝わりません」

 岸田首相は防衛費増額について、施政方針演説でこう語った。

<いざという時に国民の命を守り抜けるのか。極めて現実的なシミュレーションを行った上で、十分な守りを再構築していくための防衛力の抜本的強化を具体化しました>

 これに対して、香田氏はこう苦言を呈する。

「私が岸田首相に語ってほしかったことは、憲法の制約の中で、日本の防衛のどこを重視し、どういう布陣にするかということです。いろいろとシミュレーションをしたと言っていますが、具体的なことを何も言っていないので(話している内容に)ほとんど意味がない。もちろん防衛上の機密事項はあるので、言えないことは言えないでいい。しかし、言える範囲で、どのように説明するかという工夫さえ見られませんでした。細かい話はできないでしょうから、総論でいいんです。たとえば、日本の西側の守りが薄いのでもっと厚くするとか、多数の情報収集衛星が必要だとか、燃料、武器、弾薬の確保をまず最優先にしますとか、いくつかの代表的な事例を挙げ、ひとつの“絵”を示してほしかった。岸田首相の説明では、自分たちの税金がどう使われるのか、本当に最適な使われ方をするのか、国民は全く理解できなかったでしょう」

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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