上田美由紀死刑囚
上田美由紀死刑囚

作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は上田美由紀死刑囚について。

【写真】きれいな字。上田死刑囚が実際に書いた手紙

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 上田美由紀死刑囚が亡くなった。食べ物を喉に詰まらせた窒息死だったという。亡くなる数日前にも食べ物を詰まらせ意識を失うということがあったそうだ。1973年12月生まれ、まだ40代だ。約10年にわたる独房での生活は、それほど彼女を衰弱させたということなのか。いったいどういう状況だったのだろう。

 上田美由紀、という名前を聞いてすぐに「ああ、あの人」とわかる人はもう少なくなっているかもしれない。2010年に男性2人の強盗殺人容疑で逮捕され、他にも詐欺罪などに問われ、関わった男たちの少なくとも6人が自殺や不審死をしていると世間をにぎわせた女性だ。ちょうど男性3人の殺人容疑などで逮捕された木嶋佳苗(17年に死刑が確定)の事件が話題になっていたころで、同世代の2人はよく比較されていた。

 私はどちらの裁判も傍聴したが、木嶋と上田の事件はまるで違うものだった。木嶋はネットの婚活サイトで、上田は自分の生活圏で男たちと出会っていた。木嶋は独身男性と、上田は妻子ある男性と関わった。木嶋は男たちから受け取ったお金で高級車やブランド品を購入したが、上田は5人の子の世話に追われ、毎朝コンビニでおにぎり20個を買う生活だった。木嶋には「佳苗は私だ」「佳苗の気持ちがわかる」という女性たちの声があがったが、上田には女性たちが共感を寄せる要素はなかった。私自身、上田の人生を追いかけるほど、その厳しさに言葉を失った。

 上田の人生は、貧困と暴力と差別の深い穴に突き落とされ続けたものに見えた。高校を中退し、生活する手段を得る機会もなく19歳で最初の子を産み、31歳で5人の子の母になった上田にとって、男性とは経済=命綱だった。狭い田舎の人間関係のなかで濃密な男女関係をいくつも重ねながら、生活保護受給者、障がい者、年金受給者の男性たちからも奪うことに躊躇はなかった。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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壊れたままに次の問題が積み重なる日常