前立腺がんの多くは、ゆっくりと進行するので、なかにはすぐに治療を始めなくていいケースもあります。治療後の生存率も、がんのなかで最も高く、寿命に影響しないこともあります。高齢者に多いがんですが、若い世代が発症することもあり、一部には進行が早いタイプもあるので油断は禁物です。

【図表】前立腺がんの治療選択の流れはこちら

 また、治療法にはさまざまなものがあります。「選択肢が多くて助かった」といういい面がある一方、「どれを受けるか迷う」という悩ましい面もありますが、自分に適した治療法を選びましょう。

 本記事は、 2023年2月27日発売の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。

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 前立腺は男性だけにある臓器で、精液の一部となる前立腺液を分泌し、精嚢(せいのう)、精管とつながっています。膀胱からのびる尿道が中を通り、すぐ後ろには直腸があります。

 前立腺がんは増える傾向にあり、前立腺がんと2019年に診断された人は9万4748人で、男性で最も多いがんです。50代から急に増え始め、70代後半から80代にかけてが最も多くなっています。増加の背景には、食生活の欧米化などが関係していると考えられています。また、家族が前立腺がんである場合は罹患リスクが高まり、一部には遺伝的要因がかかわっているといわれています。

 5年生存率は100%、10年生存率は98.8%で、部位別で最も高くなっています。

 前立腺がんの初期には、ほとんど症状がありませんが、排尿の際に尿が出にくい、尿線が細く時間がかかる、頻尿、残尿感などの症状が表れることもあります。進行すると血尿が出るほか、骨に転移して背中や腰の痛みなどが起こることもあります。

 近年は、前立腺がん検診(PSA検査)が広くおこなわれるようになり、ごく早い段階で見つかることが増えています。また、排尿関連の症状があり前立腺肥大症かと思って受診したら、前立腺がんだったということもあります。多くの場合、前立腺がんと診断されても、すぐに命にかかわることはなく、焦ることなく治療について検討できますし、進行が緩やかであるため、治療後も長期にわたりつきあっていく病気といえるでしょう。

 なお、前立腺肥大症があると前立腺がんになりやすいということはありません。

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