歯科治療には自費診療で高額な治療費が発生するものもあります。その分、治療がうまくいかなかったときには患者から不満の声が出そうですが、実際はどうなのでしょうか?  トラブルや訴訟になることも多いのでしょうか? 歯周病のほか、インプラントや矯正治療にも取り組む若林健史歯科医師に聞きました。

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 厚生労働省によれば令和3年の医療訴訟事件のうち、地方裁判所で裁判が終わった820件の診療科別件数は歯科が100件。1位の内科(238件)に続き、第2位となっています。訴訟事件全体の数はそれほど多くはないですが、例えば訴訟が少ない耳鼻咽喉科は10件、皮膚科は8件です。これらに比べると歯科は、「訴えられることが多い」と言えるかもしれませんね。

 私には幸いそのような経験はありませんが、患者さんとのトラブル話は、ときどき耳に入ってきます。矯正治療やインプラント治療によるものが多いですが、トラブルの原因は医療ミスなどではなく、「歯科医師と患者さんの意思疎通ができていなかったこと」で、「患者さんに治療の説明を十分にしなかったこと」がベースにあることがほとんどのようです。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 例えば、国民生活センター「暮らしの判例」では、「歯科矯正治療契約において、病院側は治療期間が1年ではすまないと認識しながら、消費者に治療期間を1年と説明して治療の契約をしたことから、説明義務違反の不法行為が認められた事例」が、紹介されています。

 矯正治療を希望する患者さんが、「短期間で矯正ができる」と宣伝をしていたこの歯科医院を受診したところ、「1年ほどで矯正治療が可能」と言われました。そこで治療をスタートしたものの、この期間を過ぎても治療が終わらなかったため、不信感を持った患者さんが歯科医師を提訴した、というのがおおまかな内容です。

 判決では歯科医師のいう矯正治療には、1年ほどで終わるという十分な医学的根拠がなかったこと(一般的な症例では可能だが、患者さんのケースにおいて1年でできるという根拠はなかった)、これを知りながら歯科医師は患者さんに誤解を招くような説明をおこなったとされ、「説明義務違反」となり、患者さんの損害賠償請求が認められることになったのです。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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