「僕みたいになる前に気づいて病院に行ってもらいた」と話す宮野さん
「僕みたいになる前に気づいて病院に行ってもらいた」と話す宮野さん

 YouTubeに動画を投稿したのは今から約7カ月前の6月11日。その内容は衝撃的だった。場所は病院の診察室。椅子に座るマスク姿の青年が、「血管肉腫」という血管の内皮細胞から発生するがんに侵されたことを、医師から宣告される。悪性腫瘍を左手親指に患い、左腕や左脇のリンパに転移しているという。

【写真】取材、撮影中に笑顔を絶やさなかった宮野さん

「手術として外科的にやるとなると、かなり厳しい話ですけれども、左の肩ごと、上腕骨、肩甲骨も含めて手を取れば、治る確率はあると思うんです。ただもちろん、それってかなりご本人にとっても、利き腕ではないにしてもね、手がなくなっちゃうし、生活だって変わっちゃうから、すごく決断としては難しいし、もう一つは、血管肉腫自体の治療成績って、あんまり実は良くないんですね」

 医師は少し躊躇した後に続けた。

「数字で言ってもいい? 数字で言うと、大体2年後に助かる人が半分なんですよ、2年後に命がある人が半分」

 青年は表情一つ変えない。医師から治療のベストな方法として左腕の切断を伝えられると、迷わなかった。

「(腕を)落としたほうがいいと思います」

「頑張れそう?」と確認されると、「全然大丈夫です」と返答。医師は「……強いね」と漏らした。

 この青年は25歳の宮野貴至さん。当時は青山学院大の大学生で、フリーの芸人として活動していたという。

 動画を見ているといくつかの疑問が浮かぶ。なぜ、医師の宣告に表情を変えず、片腕切断という決断を即決できたのか。そして、なぜこの動画を配信しようと考えたのか――。

 宮野さんは、こう振り返る。

「血肉腫は全く想像していなかった。言われたときも名前もよく分からないしピンとこなかったです。ただ治すために腕を切るのが必然的な選択だと。それより全身に転移するほうが怖かった。病気の説明を受けたときは家族も聞いていました。両親の前なので僕も(毅然とした態度で)イキっていたのかもしれない(笑)」

 緊張感に包まれた空気を和らげる発言で笑みを浮かべた後に、複雑な表情に戻った。

「両親のほうが僕よりショックだったと思います。患者の親、友人は『第二の患者』といわれて自責の念があるそうです。大病じゃないことを両親が祈っていたって聞いて。僕は見ていませんが、宣告を聞いて家で泣いていたと思う」

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