写真はイメージ(GettyImages)
写真はイメージ(GettyImages)

 結婚したら夫婦どちらかの姓を選ばないといけない、現在の「夫婦同姓」制度。夫婦同姓は、どちらかの名字を選び、どちらかを“捨てる”ことと同義だ。妻の名字に変える夫が「4.7%」(2020年)と極端に少ない現状もあり、夫が名字を変える選択をとった夫婦もいる。短期集中連載の第1回記事では夫が妻の名字に変えるまでの迷いと変えた後の周囲からの反応への戸惑いを取り上げたが、今回は「夫に名字を変えさせてしまった」という葛藤を背負う妻の姿――。

連載第1回の記事はこちら>>夫婦別姓のリアル「名字、捨てちゃったんだ?」 妻の名字になった夫へ浴びせられる言葉と眼差し

*  *  *

「えっ、旦那さんが名字を変えたってことは、婿養子に入ったってこと!?」

 私は、久しぶりに会った知人の反応に、「またきたか」とため息が出そうになった。今回は、筆者(36)自身の話。実は前回の記事の当事者は、筆者の夫だ。私たち夫婦は、4年ほど前の結婚時、婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」の欄で「妻の氏」を選択。私は名字を変えず、夫が「松岡」に変えることになった。

 実に95.3%の夫婦が「夫の氏」を選択する現代、結婚前の女性の間で交わされるお決まりのフレーズといえば、「結婚したら、なんて名字になるの?」。

だから「名字は変わらない」と言うと、途端に相手の顔にはハテナマークが浮かび、さまざまな臆測が口をついて出る。「婿養子?」「婿入り?」「奥さんの“家”に入ってくれるなんて」「向こうのご両親は大丈夫なの?」などなど。

 私が長女で、妹が1人いると知ると「女の子だけだと、お婿さんもらわないと、家が途絶えるからか」「理解がある旦那さんで、本当に良かったですね」などとなる。どこか釈然としない思いを感じながらも、相手に対して細かい事情や経緯を説明する気にはならないし、相手もそこまで興味があるわけではないと思う。だからとりあえず、話が次のテーマに移るまで、その場をやり過ごすのが常だ。

 ただ、なかには「よっぽどいい家柄なんですね」「代々続くおうちとかなの?」とまで続くときがあって、“名字”や“家”にまつわる固定観念があまりに浸透していることに、めまいがしそうになることもある。無論、相手に悪意があるわけではないのは百も承知だ。だが純粋な好奇心や、無邪気な“無知”には、時に他人のプライベートに土足で踏み込む危険性があることを実感した。

著者プロフィールを見る
松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

松岡かすみの記事一覧はこちら
次のページ
名字という重い「荷物」を背負わされるとは……