写真はイメージ(GettyImages)
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 95.3%——結婚するときに、夫の名字(姓、氏)を選ぶ人の割合だ(2020年)。結婚すると、妻の名字が夫の名字へと変わるのが大多数で、結婚によって夫の名字が変わることはごくまれ。現在の民法のもとでは、結婚に際して、男性または女性のいずれかが、必ず名字を変えなければならない。

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 現実には男性の姓を選び、女性が姓を改める例が圧倒的多数だ。ところが女性の社会進出などに伴い、同姓か別姓かを選べる「選択的夫婦別姓」を求める声が強まっている。短期集中連載「夫婦別姓のその先に」では、多角的にこの問題を特集する。

 取材を進めると、名字を変えることで起こるさまざまな問題や葛藤が見えてきた。短期集中連載第1回は、結婚によって妻の名字に変えた男性が見た“世界”について――。

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 現在、会社員として働く松岡基弘さん(34)。4年ほど前に結婚した際、名字を妻の姓である「松岡」に変えた。もともと名字に対して執着がなく、10代のころから漠然と「いつか結婚することになったら、名字を変えることになるかもな」と思っていた。

 そう考えるようになったきっかけの一つに、両親の不仲があった。東大出身で官僚だった」父と、名門私大出身で長く銀行に勤めた母。晩婚だった両親の間では、基弘さんが幼いころから口論が絶えなかった。基弘さんは中学生のときから両親に離婚を勧めてきたが、世間体を気にしてか、両親は付かず離れずの距離感を保ちながらも同居する道を歩んできた。それも起因してか、両親と同じ自分の名字が、あまり好きになれなかったという。

 高校時代、ある日突然、名字が変わったクラスメートの姿も印象的だった。理由は定かではないが、昨日までは○○君だったのが、今日からは△△君。クラスメート自身は何も変わらないのに、名字だけが突然変わる。当たり前だが、名字が変わっても、その人の中身が変わるわけではないことを知った。「名字って不思議だな」と思うと同時に、「親がつけてくれた下の名前は大事だけれど、名字は飾りみたいなものだな」とも感じた。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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