今季はロッテでプレーしたオスナ(写真提供・千葉ロッテマリーンズ)
今季はロッテでプレーしたオスナ(写真提供・千葉ロッテマリーンズ)

 多くの動きがあった今年のストーブリーグ。その中で主役となったのはやはりソフトバンクだろう。フリーエージェント(以下FA)で嶺井博希(前DeNA)と近藤健介(前日本ハム)を獲得すると、外国人もガンケル(前阪神)、オスナ(前ロッテ)と日本で実績のある投手の入団も発表された。

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 特に注目が集まったのはその高額年俸で、中でも近藤は7年総額50億円、オスナも単年契約ながら年俸6億5000万円(いずれも推定)という大型契約であり、改めてその資金力を示す結果となっている。また来シーズンからは日本球界初となる4軍制を導入することも発表され、10月のドラフト会議では実に14人もの育成選手を指名したが、こういった取り組みも資金力がなければできないことである。

 一方でそんなソフトバンクの大型補強に対して批判的な意見が出ていることも確かだ。このままでは資金力のある球団が有利になるため、その差を埋めるためにアメリカのプロスポーツで導入されているサラリーキャップを導入すべきではないかという声もある。サラリーキャップとは球団の総額年俸を定め、戦力均衡化を図ろうというものであり、NFLやNBAで導入されている。MLBではその導入をめぐって1994年から1995年にかけて長期的なストライキとなるなど大きな問題となり、折衷案として年俸総額が一定額以上になった時に「贅沢税」と呼ばれる課徴金が発生する仕組みとした。

 ではNPBでもこのような戦力均衡案は必要なのだろうか。結論から先に述べると、現時点では不要と考えられる。まず大きな理由の一つとして、資金力がある球団による上位独占という状況が起こっていないことが挙げられる。2010年代の10年間はソフトバンクが6度日本一に輝くなど黄金時代を築いているが、レギュラーシーズンの成績を見てみるとリーグ優勝を逃した年も5回あり、他の5球団と比べて圧倒的な強さを誇っていたわけではない。むしろ短期決戦の強さがこの結果に繋がったと言えるだろう。

 一方のセ・リーグの2010年代を見ても、最も資金力のある巨人はリーグ優勝4回にとどまっている。今年はセ・リーグがヤクルト、パ・リーグはオリックスがペナントレース連覇を達成したが、この2球団はそれまで2年連続で最下位に沈んでおり、そんなチームでもやり方次第によっては勝つことができるというのがNPBの現状なのだ。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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