民族衣装「ロンジー」の内側の隠れる部分に「国軍は崩壊している」の文字
民族衣装「ロンジー」の内側の隠れる部分に「国軍は崩壊している」の文字

 長期にわたって続く、ミャンマーでの国軍に対する市民の抗議活動。国軍側の監視の目をくぐり、形を変えてさまざまなやり方が試みられている。ここ最近、目立っているのがSNSで拡散している「Failed law」(壊された法律)の画像投稿と民族衣装「ロンジー」を使った抗議だ。見つかれば命の危険にもつながりかねない行動を続ける市民たち。現地で状況を追っているミャンマー人や日本人に話を聞いた。

【写真】SNSで発信する抗議活動の画像はこちら

「Failed law」は、来年に実施されるといわれている国軍主導の選挙に対する抗議だ。この文字が書かれたステッカーや紙を路線バスに貼ったり、裁判所や役所、警察署の前で掲げて撮影したりして投稿する。誰が撮影したかはわからない。海外の人々へのアピールだ。

投稿された「Faild Low」キャンペーン。後ろに写っているのは旧最高裁判所
投稿された「Faild Low」キャンペーン。後ろに写っているのは旧最高裁判所

 一方、ロンジーはミャンマーの民族衣装。筒形の布で、男性、女性ともに下半身に巻いている。男性は腹の上あたりで縛るように止め、女性は腰の脇に布を巻き込むようにして止める。しかし、ベルトでとめているわけではないので、緩んでくる。ミャンマーの人たちはときどき、ロンジーをほどいて締めなおす。

 ほどいたその瞬間――。

 布の内側には、抗議の文面が縫いつけてあった。

「絶対に勝つ」

「諦めない」

「国軍は崩壊している」

「独裁政治を終わらせよう」

 そこを撮影させて、さっとロンジーを締めなおすわけだ。市場やバス通りなど、人通りの多いところであえてロンジーを締めなおすことで、抵抗の覚悟を示している。

 2021年2月のクーデター以来、全国で激しい抗議デモが起きた。国軍はそうした動きに対し、銃を向けて弾圧した。国軍の車が猛スピードでデモ隊に突っ込む映像は世界から非難された。

 民主派勢力は国民防衛軍という武装組織を結成し、各地で戦闘を続けている。国民防衛軍は10万人規模といわれる。地方の少数民族にも国軍に反旗を翻す勢力があり、ミャンマーは内戦状態という人もいる。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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国軍による犠牲者は数千人規模