上皇さまと美智子さま(2021年10月)
上皇さまと美智子さま(2021年10月)

 上皇さまが89歳の誕生日を迎えた。昨年、歴代上皇の中で最高齢を記録。その上皇さまが令和の皇室に伝えたかったこととは――。

【写真】美智子さまの腕をやさしく支える上皇さま

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 上皇さまが89歳の誕生日を迎えたこの日。

 天皇陛下と皇后雅子さまは、赤坂御用地にある仙洞御所に祝賀のごあいさつをする。

 上皇さまは、夏前から胸に水がたまる「胸水貯留」などの症状が見られ、心臓の三尖弁(さんせんべん)閉鎖不全による右心不全など年齢からくる体調不良はあるものの、家族で暮らした思い出の住まいで美智子さまと穏やかな日々を送る。

 引退生活に入ったいま、上皇ご夫妻から目立った発信はほぼない。

 皇室の事情に詳しい人物はこう話す。

「何か発信すれば、二重権力といった批判だけが飛び交う。しかし、それでも何かを伝えたいという思いがまったく残っていないわけではないと拝察します」

 というのも、月刊「文藝春秋」1月号に、作家の保阪正康さんが皇室に関する原稿を寄せている。平成の時代、保阪さんと近現代史の研究家である故・半藤一利さんは、御所の応接室で当時の両陛下と懇談した。原稿では当時の様子を振り返っている。

 そこでは、上皇ご夫妻は、戦前の教科書と終戦後に焼け野原になった日本を回想し、そして美智子さまは養蚕について「日本の若い人も養蚕に関心を持ってほしい」と話している。

 戦争の記憶を伝え続けること。そして日本の伝統の継承は上皇ご夫妻が心を寄せ続けてきたことだ。 

 先の人物は、こう思いをめぐらせる。

「平成の時代の談話をなぜあえていま執筆するのか。上皇ご夫妻周辺にも令和の人びとにも伝えていきたいという思いがあったのではないか」

 上皇さまは、天皇として迎えた最後の誕生日会見(2018年)で、昭和の時代から11回訪問を重ねた沖縄について、歴史や文化を理解するよう努めてきたことに触れつつ、こう述べた。

「沖縄の人々が耐え続けた犠牲に心を寄せていくとの私どもの思いは、これからも変わることはありません」  

 退位後も心を寄せる――その言葉通り、沖縄復帰50年にあたる今年、東京国立博物館(東京都台東区)で開催された「琉球展」にご夫妻で足を運んだ。

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