(Getty Images)
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 南シナ海に浮かぶ南沙諸島は、中国・台湾・ベトナム・フィリピンなどが領有を争う、地政学上のホットスポット。近年は中国の実効支配が進み、岩礁に次々と軍事拠点を作っている。2022年11月22日、米国のハリス副大統領が南シナ海にあるフィリピンのパラワン島を訪問したのも、中国に対抗して米国の存在感をアピールする狙いがある。

【マンガ】必読!ざっくりわかる中国の「南シナ海実効支配」

 中国はなぜ、南シナ海の小さな島々にこだわるのか。『ざっくりわかる 8コマ地政学』から、マンガを交えて解説したい。

中国が引いた「九段線」。九段線の内側を自国の内海と主張して、南シナ海のシーレーンを確保しようとしている
中国が引いた「九段線」。九段線の内側を自国の内海と主張して、南シナ海のシーレーンを確保しようとしている

 1953年、中国が発行した地図には、南シナ海がすっぽり入る9本の線が書かれている。中国が主張する権益の範囲を示す、いわゆる「九段線」だ。中国が南シナ海へ進出するようになったのは、南シナ海に海底油田がある可能性が明らかになってから。1988年に中国とベトナムの海軍が衝突して以降、強引な進出が始まった。

 冷戦中は、フィリピンに置かれていた米軍が抑止力となっていた。その後、フィリピンの親米政権が倒れ、1992年に米軍が撤退。そのスキに、中国はフィリピンが支配していた南沙諸島の環礁の一つ、ミスチーフ礁を占領してしまう。2016年、オランダの国際仲裁裁判所は「九段線に国際法上の根拠なし」との裁定を下し、フィリピンの主張を認めたが、中国はその裁定に従っていない。

 中国の南シナ海における戦略は、「キャベツ戦略」「サラミ戦略」の二枚看板だとされている。前者は、「民間漁船の保護」という名目で何重にも軍艦で取り囲み、手出しできなくする戦略。後者は、薄切りしたサラミを少しずつ奪うように、相手が油断している間に少しずつ既成事実を積み重ねていく戦略のことだ。

 東南アジア諸国は、南沙諸島支配の既成事実化を進める中国に危機感を強めるが、中国との経済的な結びつきが強いこともあって、足並みを揃えることができずにいる。

 中国がこの海域にこだわるのは、海底資源のためだけではない。

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南シナ海は中国の生命線