上弦の陸(ろく)の鬼・堕姫(画像は新宿駅地下・メトロプロムナードに掲載された大型広告より)
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【※ネタバレ注意】以下の内容には、今後放映予定のアニメ、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

【写真】「上弦の鬼」のなかで最も悲しい過去を持つ鬼はこちら

 2023年2月に『鬼滅の刃』「遊郭編」10話・11話と、アニメ新シリーズ「刀鍛冶の里編」1話が劇場公開になることが発表された。「遊郭編」は“遊郭の鬼”と呼ばれる兄妹の物語でもあるが、「雪の日の来訪者」がキーパーソンとして登場する。実は、「雪の来訪者」は炭治郎・禰豆子兄妹など他のキャラクターのエピソードでも“運命の分かれ道”を描く場面で重要な役割を担う。物語における「雪」「冬」には記号的な意味があり、外からの「来訪者」にも重要な意味が隠されている。

*  *  *

■竈門家を襲撃した「雪の日の来訪者」

「幸せが壊れる時には いつも 血の匂いがする」―竈門家の長男・炭治郎の留守中、母と弟妹たちが鬼の襲撃にあい、炭治郎のすぐ下の妹・禰豆子だけが生き残った。『鬼滅の刃』の印象的な冒頭は、降りしきる雪と血の場面で始まる。

「なんでこんなことになったんだ 禰豆子 死ぬなよ 死ぬな 絶対助けてやるからな 死なせない 兄ちゃんが絶対助けてやるからな」(竈門炭治郎/1巻・第1話「残酷」)

 炭治郎の家族を襲ったのは、鬼の始祖である鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)だった。炭治郎は禰豆子を人間に戻すために旅に出るが、それはすなわち最強の鬼・無惨との戦いが、運命づけられた瞬間でもあった。

■“遊郭の鬼”と呼ばれた兄妹

 のちに“遊郭の鬼”となる妓夫太郎・梅の兄妹は、遊郭の最下層で生まれ、梅毒の母を持ち、父はおらず、ネズミや虫を食って飢えをしのぐほど過酷な幼少期を過ごした。

 父がいないのは竈門兄妹と同じであるが、炭治郎たちが父を亡くしたのは物心がついてからだ。雨風のしのげる家で育ち、少ないながらも食事をとることはできていた。町の人にも愛され、優しい母と暮らしていた炭治郎と違い、妓夫太郎は周囲から心ない仕打ちをうけて育つ。美しい妹・梅だけが、妓夫太郎の心の支えだった。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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雪の日に現れた「優しい鬼」