時代とともに医師に求められることは変わり、それに即した形で大学医学部での教育内容も変わります。文部科学省などは、2024年度以降の医学部入学者が学ぶことになる新カリキュラムの方針を固め、そこにはAI(人工知能)やビッグデータの活用や、感染症教育の充実などが盛り込まれました。近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が、医学部教育について語ります。

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 医学部のカリキュラムは6年に1度改訂され、時代にあった教育が行われるよう検討されています。今年11月に行われた改訂に向けた検討会では、AI(人工知能)やビッグデータの活用、自然災害や感染症が起きた際の医師の役割を理解すること、自分の専門領域にとどまらず患者のニーズに応じて柔軟に診療することなど、いくつかの提案がなされました。これら改訂案を踏まえ、今回は医学部教育について考えてみます。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 私が専門とする皮膚科ではAIの活用がもっとも期待される分野です。例えばほくろのがんと呼ばれる悪性黒色腫は、良性のほくろとの見分けが難しい皮膚がんの一種です。皮膚科専門医はこの二つを見分けなければいけないわけですが、非常に難しいケースもあります。最近の研究では、AIがほくろとほくろのがんを皮膚科専門医以上に正確に見分けることができると報告されています。

 こうなると皮膚科医の存在意義がないように感じてしまいますが、AIにも落とし穴があります。人間の目ではわからないほどのノイズを画像に忍び込ませた場合、AIは誤診するようになったとの研究報告もあり、AIの診断を100%信じてはいけないことを知っていなければなりません。つまり、医者はAIを活用する上で、自らAIのプログラムを書く必要はありませんが、技術の限界を理解しておく必要があります。そして最終判断は人間の目が必要になります。原理原則と技術の限界を知っておくことが一般の臨床医が知っておくべきAIの基礎知識になるでしょう。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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コロナの中で課題となった医師のありかた