ABEMAの藤田晋社長(写真/アフロ)
ABEMAの藤田晋社長(写真/アフロ)

 仮にABEMAがFIFAに200億円支払ったとしても、「追加でテレビ局がFIFAに支払っていると思われます」と西田さんは話す。

 ちなみに、テレビと違って、インターネットを使った映像配信であれば、放送枠に縛られる、といった制約がない。チャンネルを増やしても費用はほとんどかからない。

「なので、W杯の放映権を得られるとわかった時点で、全試合を配信するのがベストだということは明らかでした。その点、人気のない試合はCM収入が見込めず、放送できない従来のテレビとはまったく立ち位置が異なります」

■「神アプリ」が絶対必要なわけ

 一方、ユーザーからすればABEMAを視聴した一番の理由は圧倒的な便利さだ。

「ABEMAはいつでもどこでも自由に見られるわけです。イギリスの公共放送BBCなんかはテレビでもネットでも同じコンテンツが見られますが、日本のテレビ放送にはさまざまな規制があって、それができない。NHKはようやくネットで見られるNHKプラスや民放はTVerをつくりましたが、それでも放送と通信とは別なもの、という立て付けです」

 最近は若者を中心にテレビを持たない層が増えている。

「そういう層に対して『新しいテレビを提供する』というのが、6年前にABEMAがスタートしたときから藤田社長が語ってきたことで、映像配信というかたちをとってはいますが、テレビという存在に極めて近い」

 しかも、ABEMAはふだん使い慣れているアプリにそれほど手を加えることなく、W杯を視聴できるのも特筆すべき点である。

「それだけABEMAのアプリはよくできているということなんですけれど、アプリの出来が悪ければ、どんなにコンテンツがよくても見られない。なので、藤田社長は『試作を繰り返して費用がかかっても最初から“神アプリ”を作らないとダメだ』と語っていました」

 神アプリ。つまり、“非常に優れたアプリ”という意味だ。

「ユーザーにABEMAが神アプリだと認識されることで、毎日何回も起動されるアプリになり、視聴が習慣化される。継続的に見てくれるようになれば、そこに広告を出す価値が生まれる、と藤田社長は考えたのです」

■もう誰もついてこられない

 使い勝手のよいアプリの開発だけでなく、膨大な人数が同時に視聴しても映像が止まらない(フリーズしない)対策にABEMAは莫大な資金を投じてきた。それが、視聴者数を伸ばす大きなポイントなわけだが、それがきちんとできている会社は意外と少ないという。

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