北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 「女の目を見ない日本のビジネスマン」の話に私がむぅーと暗い気分になっていたら、隣にいた男性が、「質問があります」と聞いてきた。

「新聞で読んだんだけれど、安倍さんは、日本で初めて男女平等を政策に掲げた首相だったんでしょう? あなたはどんなふうに安倍さんを評価していたの?」

 不意を突かれた。そうだった、完全に忘れてはいたけれど、そういえば安倍さんは日本で初めて、女性に輝いていただきますよ、と予算を大量につけた首相だった。2015年に「女性活躍推進法」を成立させ、女性が働きやすい環境づくりを目指そうと音頭を取った人であり、海外の投資家たちが読むような新聞では、「シンゾー・アベは男女平等政策に熱心な政治家」として記述されるような人だったのだ。

 例えばビフォー安倍さんのころ、どれだけの人が3月8日の国際女性デーを認知していただろう? 今でも覚えているが、16年に女性活躍推進法が施行された翌年の3月8日の国際女性デーは、まるでお祭りのようなにぎわいだった。時の首相の妻であった昭恵さんが自ら渋谷ヒカリエで行われたイベントに登壇し、「イキイキワクワクできる女性が輝く社会の実現」について話もしたものだ。それはなかなか画期的なことだった。実際、今や日本の3月8日は、大企業が率先して「私たちは多様性を大切にする会社、SDGs大切です!」(←男女平等とは言わない)をアピールするような日になった。3月ともなれば花屋にはミモザがあふれ、企業のホームページにも黄色の花がちりばめられるようになっている。それもこれも安倍さん時代につくられた空気でもあった。

 でも、そういう空気は、いったいどれほど私たちの社会を変えたのだろう。

 女性活躍推進法施行から6年を経ても、大企業の男たちが女の目を見ようともしない社会であることが、その答えなのだろう。「多様性大事、SDGs大事、私たちちゃんとやってますよ~」、という空気はつくられているが、そこには中身や、核となる芯がない。押せばヘコヘコとしぼむゴムボールのようなもので、真剣ゲームはできないが手軽に遊ぶには問題ない軟らかさだ。それでも、ないよりはあったほうがまし……と、はずまないボールをつかまされているのが日本の女の現実だ。

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性差別が「観光地」レベルに