日本でも過去に、CMなどに出演した著名人に対し、損害賠償請求したケースはある。

 例えば、ほとんど価値のない山林なのに、「将来、大きなもうけが出る」などとうたって法外な金額で買わせる「原野商法」をめぐる1987年の裁判。

 原告側は、この会社のパンフレットに登場し、事業を宣伝していた有名俳優に対しても損害賠償を請求したが、大阪地裁は俳優の賠償責任を認めた。

 なぜか。

「この俳優はパンフレットの中で、被告の会社の役員と個人的なつながりがあることなどを記載しており、俳優個人の立場で被告の会社を推薦している点が問題視されました」(村松弁護士)

 このように、CMなどの出演者に賠償責任が生じる可能性はあるが、裁判では個人の責任が認められなかった例もある。

 1994年に東京地裁で、詐欺的な金融商品を販売していた会社のテレビCMに出演していた大相撲の元大関が、詐欺的行為をほう助したとして訴えられた裁判。

 地裁は「テレビ広告の視聴者は多数、広範、不特定であり購買動機に多大な影響を与え得る」とCMの影響の大きさを指摘。視聴者が、出演している著名人を信頼して商品を購入したり、その結果、損害を負う可能性が予見できる場合には「広告出演を回避すべき義務を負う」とした。

 村松弁護士は「裁判所が、広告出演者にも損害賠償責任が生じうる考えを示したものです」と解説する。

 一方で、被告である元大関の責任については、

▽出演交渉や演技の内容はプロダクションなどが行っており、元大関は主体的役割を果たしていない
▽元大関が個人としてこの会社や商品を推奨したものではない
▽元大関が商品の違法性を自ら調査して、視聴者が商品を購入したら損害を負うと予見すべきだったとは言えない

 などの理由で賠償責任を認めなかった。

 先の俳優とは「故意や過失」があったかという点で、判断が分かれた恰好だ。村松弁護士は、東京地裁が示したこの判断基準が、同種の裁判での参考になるだろうと指摘する。

次のページ
もし日本で大谷選手が訴えられたらどうなる?