がんの転移データ
がんの転移データ

「重要なのはプラス(治療効果)とマイナス(副作用)のバランスです。プラスが上回ることを期待して治療を受けるわけですが、実際どうなるかはやってみないとわかりません。治療を始めてみてプラスが上回っていると感じられるなら続け、マイナスのほうが大きいと感じるなら中止も考えるのが良いと思います」

 抗がん剤はずっと同じ薬を使い続けられるわけではなく、耐性化してだんだんと効かなくなる。その時点でも抗がん剤治療を中止するか、別の抗がん剤に切り替えるのか、それぞれのプラスとマイナスのバランスを評価しながら担当医とよく話し合うことが大切だ。

 また近年、個々の体質や病状に適した治療をおこなう「がんゲノム医療」が注目されている。患者のがん組織や血液を解析して、がんに関わる100以上の遺伝子の特徴を一度に調べる「がん遺伝子パネル検査」をおこない、効果が期待できる治療薬を探そうというものだ。2019年から転移があって標準治療が終了している人などを対象に、がん遺伝子パネル検査に保険が適用され、受けやすくなった。ただし治療薬にたどりつける患者は、約1割と言われている。

「薬物療法をしないのも大事な選択肢の一つ。担当医に言われるままに納得できない治療を受けるのは避けたほうがいい。薬物療法をしなくても、つらさをやわらげる緩和ケアは必ずおこないます」

 高野医師は転移が発覚した患者に「目標を明確にすること」を勧める。

「少しでも長生きしたい、仕事を続けたい、家族との時間を大切にしたいなど、目標は人それぞれ。目標に近づけるよう、治療という道具をうまく活用しながら、自分らしく過ごしていただきたいと思います」

 通常、転移に根治的な局所治療がおこなわれることはない。しかし転移が少数個であれば、転移巣を切除したり転移巣に根治線量の放射線を当てたりすることで、根治に近い状態に持ち込めることがある。京都大学病院放射線治療科教授の溝脇尚志医師はこう話す。

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中間的な病態を「オリゴメタ(少数転移)」と呼ぶ