順天堂大学医学部附属練馬病院の病理診断科先任准教授の小倉加奈子医師(写真/写真映像部・高野楓菜)
順天堂大学医学部附属練馬病院の病理診断科先任准教授の小倉加奈子医師(写真/写真映像部・高野楓菜)

「病理医」という医師をご存じだろうか。診断や治療に欠かせない役割を果たしている医師だが、患者と接することがないため、一般的にはあまり知られていない。それは医師を目指す学生にとっても同様で、「病理医になる人を増やしたい」と中高生に病理医の仕事を紹介する活動に取り組む医師がいる。順天堂大学医学部附属練馬病院の病理診断科先任准教授の小倉加奈子医師だ。好評発売中の週刊朝日ムック『医学部に入る2023』では、小倉医師を取材した。

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 病院には、患者に接することはなくても、診断や治療に欠かせない役割を果たしている医師がいる。「病理医」もその一人だ。病理医の主な仕事は、手術や検査で切り出した病巣の一部を顕微鏡で観察し、病状を診断すること。小倉加奈子医師はこう話す。

「とくにがんの場合、胃カメラやCTなどの画像で病変を見つけ出すことはできますが、良性なのか、悪性(がん)なのかまではわかりません。病理医が顕微鏡で細胞や組織の『形』を見て、確定診断を下しています」

 がんと診断がついたらさらに、どんなタイプのがんか、どの薬が効くのか、手術で摘出された臓器を調べる場合はどのような病変がどのくらい進行していたか、手術で取りきれたのか、追加治療は必要か―。各科の臨床医は病理医の報告をもとに、次の治療方針を決定していく。

「臨床医からの問いかけに対して、答えを提示するのが私たちの役割。患者さんにとってベストな治療を選択できるように、道を示してあげる。『もう一人の主治医』として、患者さんを支えています」

■女子大生から一転 医師になる道へ

 小倉医師の小学生時代の愛読書は、『からだのひみつ』(学研)。「からだの構造や仕組みに興味があって、胃や腸のイラストを描くのが大好きな、ちょっと変わった子どもでした」

 初めて医師になりたいと思ったのは、高校生のとき。医療を扱ったドラマを見て、医師の仕事ぶりに憧れた。しかしそのときは医学部受験に挑戦するほどの自信も覚悟もなく、中高付属女子大の英文科へエスカレーター式に進学した。バラ色の女子大生生活が始まるはず……が、授業を受けて感じたのは強烈な違和感だったという。

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「私が学びたかったのはこれじゃない」