便秘が原因で学校に行けなくなることもあるといいます ※写真はイメージです (c)GettyImages
便秘が原因で学校に行けなくなることもあるといいます ※写真はイメージです (c)GettyImages

 小学生1万6655人におこなった調査の結果で、「便秘が疑われる小学生」は22.6%でした(2021年、NPO法人日本トイレ研究所調べ)。幼児と違い、小学生の便秘は親も気づきにくく、放置されて重症化すると不登校の原因になるなど、学校生活に影響が出ることもあるといいます。早期発見のポイントや治療法について、小児の排便障害の治療に長年従事してきたさいたま市立病院小児外科非常勤・元部長の中野美和子医師に聞きました。

【教えてくれたのは】たさいたま市立病院小児外科非常勤・元部長の中野美和子医師

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「たかが便秘」と思われがちですが、医師の治療が必要な病気です。特に子どもの便秘は重症化しやすいので注意が必要。まずは、実際に中野先生が治療した事例を紹介します。

 小学2年生のそうた君(仮名・8歳)がお母さんに連れられて、中野医師が勤めるさいたま市立病院小児外科の排便外来を訪れたのは、夏休み明けの9月のことでした。

 そうた君は2学期がスタートしてまもなく、腹痛を訴えることが多くなり、毎日排便できなくなりました。洗濯のときにパンツを見ると、コロンとした便が残っていたり、便が漏れて汚れていたりしたので、お母さんは「全く出ていないわけではないから、そのうちよくなるだろう」と思っていました。

■笑ったときなどに、便が漏れるように

 しかし、症状は悪化していきます。笑ったときなど、おなかに力が入った瞬間に便が漏れるため、そうた君は習い事のスポーツ教室に行きたがらなくなったといいます。

 初診の際、中野医師がそうた君のおなかを触ったところ、直腸に便が大量にたまっていて、下腹が硬く、大きく膨らんでいました。大きな塊になった便が肛門の出口をふさいでいたのです。そしてその便の塊と腸の壁の間から、ゆるくなった便の一部が漏れ出ていました。パンツについていた便は、この漏れた便だったのです。

 そこで外来では、浣腸(かんちょう)を使ってたまった便を出す処置をしました。その後は自宅で毎日浣腸を続け、1週間後の再診の後からは1日おきに使用を継続。そうして1カ月後には便の塊はなくなり、漏れなくなったので下着も汚れなくなりました。2カ月後には毎日バナナ状の便が出るようになり、浣腸は不要に。約半年で通院を終了できたといいます。

■子どもの便秘は「トラウマ」になる恐れが

 子どもの便秘の定義は大人と同じ。「排便回数が少ない(週に3回未満)」だけではなく、「毎日出ていても、便が出にくい。出してもすっきりしない」場合は便秘です。

 一方、子どもの便秘は大人とは異なる特徴があります。大人の便秘は食物繊維不足など「生活習慣の乱れ」や「ホルモンバランスの乱れ(女性)」などがきっかけで起こることが多いです。子どもの場合は、生まれつき便秘になりやすい体質であることや、排便時の痛みがトラウマとなってトイレを我慢してしまって便秘になるケースがほとんどです。

 この「トラウマ」は大きな問題です。硬い便を排泄(はいせつ)するときに痛みをともなうことはよくあると思います。子どもは排便の大切さがまだ理解できていないので、「痛いからウンチをしたくない」と我慢をするようになってしまいます。これを繰り返すうちに便が直腸に少しずつたまって漬物石のようになり、やがて直腸自体が広がって便がたまりやすく、重症化していきます(便秘のトラウマについては、主に2~3歳の子どもを対象に、過去記事で特集しています)。

■小学生の便秘は親が気づきにくい

「生まれつき、便秘になりやすい体質」は成長の過程でよくなっていきますが、このように「便が直腸にたまりやすい状態」をそのままにしておくと、改善しない可能性が高いということです。

 さて、中野医師は小学生以降の子どもの便秘について次のように話します。

「小さい子どもは排便が苦しい場合、泣いて大騒ぎをしますが、小学生の場合は苦しいことに次第に慣れてしまい、『異常』と感じなくなるので、親にも訴えなくなります」

 一方、便秘が繰り返されると便が直腸に詰まるので、「腹痛」や「便の漏れ」として表にあらわれるそうです。

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子どものために、親ができる便秘対策とは