『忘れる脳力』著者の岩立康男教授
『忘れる脳力』著者の岩立康男教授

「忘れることは、脳の健康に良いこと」。そんなメッセージを発信しているのは、千葉大学脳神経外科学教授の岩立康男氏だ。岩立氏は、著書『忘れる脳力』(朝日新書)のなかで、「必要な記憶」を維持し、「忘れたい記憶」を忘れるコツを伝授している。

【図】食習慣で変わる!「記憶を左右する重要物質」はこちら

 記憶の質を高め、健康脳を維持するためには食習慣も重要だ。記憶に必須となる栄養素は何なのだろうか? 『忘れる脳力』の一部を抜粋して解説する。

 脳のメンテナンスという観点で言えば、睡眠だけでなく「食事」も重要だ。その重要性が知られるようになったからか、「記憶力」というキーワードで検索すると、「脳に良いサプリ」 「記憶力を高める食品」といった広告がたくさん出てくる。はたしてこれらは本当に有効なのか?多くの人が期待と不安を抱くであろう。

 もちろん、これらに期待できる効果は千差万別なので注意が必要だ。では、本書(『忘れる脳力』)で強調してきた「必要な記憶を確保しながら、忘れてもいい記憶はどんどん消していく」という理想の状態に近づけるには、食事で何を補えばいいのだろうか?

 まず挙げられるのは、「脂質」である。脳の細胞は非常に細かな突起に富んでいて、その形を維持するためには細胞膜の成分となる脂質がたくさん必要になるのだ。ダイエットなどでは脂質は避けられがちだが、脂質を含んだ食材を適度に摂ることは脳機能を維持するうえで効果的なのである。

 脂質の中でも、特に「オメガ3系不飽和脂肪酸」が細胞膜の成分として重要であり、これをサプリとして摂取することは認知機能改善に役立つとされている。このオメガ3系が豊富にあると、細胞膜の柔軟性・流動性が高まるからである。

 まだまだ解明されていないことも多いが、脳機能に障害がある人や脳の成長段階にある子どもにオメガ3系を摂取させることで、認知機能に改善が見られたとする報告もなされている。よほど極端な摂取法でなければ、少し多めにオメガ3系を摂ることは決してマイナスにはならないであろう。

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記憶に必要な「脂質以外の栄養素」