やむなく受け入れた相手は、経歴を詐称し、定職がなくアルコール依存症、冠木さんのクレジットカードを無断で100万円も使う男だった。韓国で2人目の娘を帝王切開で出産した時には、術後2週間安静にするはずが、4日目にして夫が酒を飲み病院に乗り込んで来て、お金がないから「早く退院させろ」と騒ぎ、無理やり退院させられた。

 結局、夫は闇金に追われて蒸発。異国の地に取り残された冠木さんと娘2人は、夫に捨てられたのだった。

 数カ月後、夫が失踪した先の食堂を経営しているハルモニ(韓国語でおばあさんの意)から連絡があり、行き場所を失っていた冠木さん母子は、好意で住む場所を提供してもらえることになった。再び夫と生活することに葛藤を抱いたが、生きるためにはこの生活を受け入れざるを得なかった。だが、貸してもらえたのは、台所もトイレもないプレハブ小屋だけ。そこでの極貧生活に耐える日々が続いた。

 なぜ冠木さん母子はこんな生活に耐えることを選んだのか。それには理由がある。

「教祖(文鮮明)からは、『うら若き韓国の乙女を従軍慰安婦として苦しめた過去の罪がある』から、日本人は『どんな韓国人と結婚させられても感謝しなければならない』と言われ続けていました。私たちは日本人であることの罪を植え付けられ、どんな苦難も甘受しなければいけないと思わされていました。だから、ひたすら耐えていたのです」

 だが、2013年に文鮮明が死去する。神メシアとしてあがめていた教祖が、肺炎であっけなく亡くなったことで、冠木さんの洗脳は解けた。そして、冠木さんは娘とともに日本に帰国。日本に帰ってくれば、この苦境から解放され、人生が開けるのではという希望があった。

 だが、またしても現実は違うものになってしまう。冠木さんは「脱会後の人生の方がつらかった」と語った。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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