口の中が乾燥する、ねばついて水をしょっちゅう飲んでしまう……。こうした症状を訴える女性は多いようです。ネットを見ると、「口の乾燥は更年期障害の一症状」と書かれているものもあります。このような症状があらわれた場合、歯科医を受診してもいいのでしょうか? 歯周病専門医の若林健史歯科医師に聞いてみました。

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 口の中の唾液が少なくなり、乾燥する状態を、「ドライマウス(口腔<こうくう>乾燥症)」と言います。このような症状があったら、遠慮なく、歯科を受診してください。あまり知られていませんが、ドライマウスは歯科が専門としている病気です。歯科医であれば、誰もが患者さんを診療できるよう、トレーニングを受けています。「それは歯科医がやることではありません」などと断ることはありません。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 なぜ歯科がドライマウスを診ることになっているのか。それは、「口の中を診療するプロだから」とあえて言わせてもらいます。歯科医が診る代表的な病気はむし歯や歯周病ですが、私たちはそうした治療をするときに、患者さんの口の中をすみずみまで、観察しています。このような仕事を常にしていますので、患者さんの粘膜や歯ぐきの色から、口の中の乾燥の有無やその程度を、かなり正確に知ることができるのです。

 また、唾液が減ると食べかすが洗い流されにくくなり、歯をきちんとみがいていても、口の中が汚れがちになります。また、歯に付着しているプラークも、通常は乳白色でぬるぬるしていますが、ドライマウスの人は乾燥して硬くなっています。

 さらに唾液がねばねばしているのも特徴です。唾液には漿液(しょうえき)性の「さらさらした唾液」粘液性の「ねばねば系の唾液」「その中間」の大きく三つがあるのですが、ドライマウスの人に唾液を吸い取るためのバキュームという吸引装置を使うと、「じゅるじゅる」と詰まりかけたような音がします。

 ドライマウスは薬の副作用のほか、ストレスや緊張、口呼吸の習慣、女性ホルモンの低下、加齢の影響、さらにシェーグレン症候群という自己免疫疾患など、さまざまなことが原因で起こります。ドライマウスが確認できた場合は、さらに詳しく問診をして、こうした原因のうち、どれに相当するのかを探ります。そして医科に紹介するのが適切と判断すれば、そちらの科に紹介します。シェーグレン症候群などはその典型です。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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