ある日曜日のこと。竹迫さんは池袋駅前の歩行者天国を歩いていた。すると、顔見知りの信者たちがアンケート調査(伝道活動)をしていた。

「そこで『あっ、久しぶり』って、声かけようと思ったら、すっといなくなったんです。『あれ、見えなかったのかな』と思った。でも、何人かに声をかけようと繰り返しているうちに、いつの間にか取り囲まれた」

 裏路地に連れ込まれ、腹に3発、蹴りを入れられた。「スパイ」「サタン」と罵られた。

「彼らとは同じホーム(旧統一教会の宿舎)で暮らしていたので、兄弟姉妹っていうくらい強い仲間意識で結ばれていたんです。でも、彼らからしたら、ぼくは裏切り者だった」

 竹迫さんは寂しそうに語った。

 自宅には無言電話が絶え間なくかかってきた。だが、それで初めて、自分がやったことに気づいた。

「統一教会の上司から電話番号を書いた紙片とテレホンカードを数十枚渡されて、公衆電話から電話して、相手が出たら切る、という作業を朝から晩までやらされたことがあるんです。相手がどこの誰かは知りません。それが無言電話だということに自分がやられて、初めてわかった」

 かつての仲間から殺されるのではないか……。そんな恐怖感を覚える日々だった。外出する際にはかばんに鉄板を忍ばせ、サバイバルナイフを携帯した。夜はいつでも逃げられるように、靴を履いたまま寝た。

強い圧力をかけてきたワケ

 これまで大勢の脱会信者のケアをしてきた竹迫さんだが、脱会時にこれほどの体験をした話は聞いたことがないという。

「どうやらハンカチ売りのキャラバン隊はあの地区の総責任者のポケットマネーを稼ぐための私設部隊だったらしく、その情報がぼくから漏れるのを恐れて、強い圧力をかけてきたみたいです」

 旧統一教会では「上司の意向は神の意志」である。末端信者は何の疑問も持たず、上司の指示を実行に移すという。

 筆者はこれまでの取材で「旧統一教会は昔も今も基本的に何も変わっていない」と、関係者から繰り返し聞かされてきた。勧誘のトークも驚くほど変わらないという。清掃ボランティアや生け花教室、合唱サークルなど、さまざまな旧統一教会のダミー団体が報告されている。

「大半の人はそれがどういう団体か、まったく知らないまま誘い込まれていくんです」

 そう話す竹迫さん。これからも脱会支援の活動に従事するという。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)