決勝で下関国際に勝利し、マウンドに集まる仙台育英の選手たち
決勝で下関国際に勝利し、マウンドに集まる仙台育英の選手たち

 深紅の大優勝旗が、初めて東北の地に降り立つ。全国高校野球選手権の決勝戦が8月22日にあり、仙台育英が下関国際を8-1で破り、東北勢初となる全国制覇を果たした。

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 1915年の第1回大会で秋田中が京都二に決勝で敗北。この時は、東北勢が頂点に立つまでに、それから100年以上の年月を経ることになるとは、想像できなかっただろう。

 一昔前、東北地方は「野球不毛の地」とも呼ばれ、甲子園の初戦のカードで「東北勢と当たるとラッキー」などと揶揄(やゆ)される時代もあった。しかし近年、東北勢では仙台育英、東北、花巻東、八戸学院光星、聖光学院など全国の頂点を狙える力を持った高校が増えた。

 大谷翔平(エンゼルス)、菊池雄星(ブルージェイズ)、佐々木朗希(ロッテ)はいずれも岩手県出身。ダルビッシュ有(パドレス)、坂本勇人巨人)も関西からの「野球留学」で東北の高校に進学するなど、球界を代表する選手たちが東北の地から全国制覇を目指してきた。

 今大会の優勝候補の大本命は大阪桐蔭だった。史上初の3度目の春夏連覇を狙う同校の力はズバ抜けていた。その大阪桐蔭を破る筆頭候補は、今年の春季近畿大会決勝で大阪桐蔭を3-2で撃破し、昨夏に続く連覇を目指した智弁和歌山だった。

 しかし、智弁和歌山が初戦で国学院栃木に3-5で敗れて姿を消すと、大阪桐蔭も準々決勝で下関国際に4-5で敗れた。下関国際の大金星は決してフロックではない。準決勝ではプロ注目の右腕・山田陽翔擁する近江に8-2で打ち勝っている。

 そして、何より選手たちは大人の想像を超えて成長する。決勝戦で7回に左翼席へ満塁弾を放ち、仙台育英の勝利を決定づけたのは、今夏の宮城県大会でベンチ外だった岩崎生弥(3年)だった。

 昨年6月に逆流性食道炎で日常生活に支障をきたすほどで、全体練習に合流したのは今年6月だった。練習もままならず、1年間のブランクがあっても、最後まであきらめずに甲子園でメンバー入りした姿を神様は見ていた。殊勲の一発でダイヤモンドを一周する岩崎の笑顔がはじけた。

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