膣内射精障害の背景には大きく二つの要因があり、一つはネット動画など、性的に刺激の強いコンテンツが氾濫し、過激な刺激に慣れ過ぎてしまっている傾向があること。そして思春期からの誤ったマスターベーションの方法に慣れてしまい、膣内の刺激に反応しないことも要因の一つと言われる。

 恋愛観や性欲の低下も、現代人の特徴の一つと挙げられて久しい。2020年にリクルートブライダル総研が行った調査によれば、20代から40代の未婚者において、恋人がいない人の割合は約7割。さらに20代男性に絞ると、一度も交際経験がない人の割合は約4割に上る。辻村医師は言う。

「現状では射精に対する特効薬は存在しないことから、治療法は地道なトレーニングが主。具体的にはマスターベーション方法を修正し、適切な刺激で射精できるよう専用の器具などを用いて膣内射精のトレーニングをします」

 行動療法によって少しずつ慣らしていくという意味では、この短期集中連載の第一回目の記事で紹介した実例の女性の挿入障害と同じだ。

「ただ、これだけ生殖医療が発達している今、“何が何でも膣内射精ができるように”とこだわる人は少なくなってきている印象もあります」(辻村医師)

 いわば性交をせずとも、他の方法で妊娠を目指すことが可能な時代。自然妊娠にとらわれず、効率的に目標に向けて動こうと考えるカップルも少なくない。

「子どもを望むなら、自然妊娠へのこだわりが思わぬハードルになることもある」

 産婦人科医の宋美玄医師(丸の内の森レディースクリニック)はこう指摘する。妊娠出産はカップルで臨むことから、どちらかの自然妊娠への志向が強いあまりに、不妊治療に足踏みする例も少なくない。

「普段から性交しているわけではないけれど、子どもは欲しい。でも“不妊治療までして授かりたくない”という人は多い。しかし、それではなかなか妊娠しないままに時ばかりが過ぎてしまいます。もちろん、子どもを持たない選択もあるというのが大前提の上で、それでも妊娠を望むなら、自然妊娠へのこだわりから離れてみることも大切では」

「子どもは自然に授かるべきもの」と思い込み過ぎると、時に自分たちを追い詰めてしまうことにもなるかもしれない。

 ところが、この“自然派信仰”に、当事者を取り巻く人々がとらわれていることで、思わぬ事態に追い込まれる場合もあるという――。(次の記事に続く)

【短期集中連載第1回はこちら】

前編:「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み

後編:年々増加する「セックスレス妊活」 性外来の医師が指摘する深刻な課題とは

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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